日本発生生物学会が今年50周年とのことで、演題は出していなかったのですが、情報収集のために3日目のみ参加してきました。ちなみに、関連イベントとして企画展
「卵からはじまる形づくり〜発生生物学への誘い〜」が国立科学博物館で開催中です(6/11まで)。
夕方にプレナリーレクチャー2題で、その後、懇親会という「3日目の午前中で帰らないでね」作戦のスケジュール。50周年を記念して最終日のプレナリースピーカーは、Eddy De Robertis先生とLowis Wolpert先生ということになっていました。残念ながらWolpert先生は怪我によって来日できなくなって、ビデオメッセージを送って頂きました。
学会長の上野先生がイントロとまとめを話されたのですが、「人生でもっとも大事な時は、誕生でも結婚でもなく、原腸陥入である」というウォルパート先生の言葉を引用され、「でも、実は先生は最近、御結婚されました。きっと怪我も早く良くなることでしょう♬」と締めくくられました。
ウォルパート先生の講演がキャンセルされたので、急遽、岡田節人先生の追悼講演会となり、個人的には有難かったです。
一人目は、岡田先生のお弟子さんとして阿形清和先生@学習院大が登壇され、タイトル画像はブルーバックスの『細胞の社会ー生命の秩序をさぐる』。生体を「細胞の集団」として捉えるということが、それまでの発生学とは異なる視点だったのです。これに感銘を受けて発生研究の道に進んだとのこと。私が持っているのは
1987年の改訂新版の方。こちらはまだ売っています。阿形さんは節人先生の研究からご自分のプラナリア再生研究への道筋について話されました。
二人目は三浦正幸先生@東大薬学。やっぱり同世代だからか、表紙スライドには同じ本のカバーが。
三浦先生もやはりこの本にインパクトを受けて研究の道へ。岡田先生との直接の接点は、基礎生物学研究所の所長をされていた頃に、御子柴先生の客員研究室に参画していたとのこと。岡田先生のテニス姿は存じ上げなかったので新鮮。やっぱり緑がトレードマーク♬
さらに3人目は、岡田先生が京大生物物理の研究室を開いたときに教員として参画した近藤寿人先生@京都産業大。近藤先生のタイトルは「The Developmental Biology played by Tokindo S. Okadaas a solist and a conductor」というちょっとスノッブで洒落たものでした。
さすが緻密な近藤先生らしく、節人先生のご研究の流れや、研究プレイヤーとしての業績と、研究チームを率いるリーダーとしての成果を分析されたお話でした。Developmentという国際誌に、東北大学名誉教授である仲村春和先生と共著で追悼文も書かれています。ダウンロードは
こちら。
京都時代にJohn Gurdon先生(2012年に山中伸弥先生とともにノーベル生理学平和賞授賞)やNicole Le Douarin先生(1986年に京都賞授賞)などを日本に招かれたことも、その後、多くの研究者に影響を与えたことになります。
改めて、節人先生というのは、今風に言えば「ビジョナリー」だったのだと思います。そういう意味で、今、私たちの世代に、これからの若い方々を惹き付けるだけの魅力や先見性を持った研究者が、どれほど可視化されているのか疑わしい……。節人先生が『細胞の社会』を書かれたのは1972年、45歳のときでした。今の40代半ばの生命科学研究者は、本を著すよりも、インパクトのある原著論文や、各種の申請書・報告書を書くのに必死で余裕が無いかもしれません。
三浦さんの発表の中で節人先生の言葉として「無駄する余裕、もたんとあかんで」と挙げられていましたが、本当にその通りですね。
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