過日、仙台同友会・拡大ダイバーシティ委員会が主催する講演会に出席し、
野田聖子衆議院議員の講演を聴く機会に恵まれた。タイトルは「人財輝く日本を創る」。
最初に取り上げられたのが、こちらの
日本の人口動態推移のグラフ。将来の年齢別人口構成はその年の出生率によってある程度予測できる。もちろん、寿命は今のところ、さらに伸びているから修正も必要だろうが。日本の人口は2008年をピークとして減少に転じており、2050年に9,515万人となることが予測されている。絶対数としての人数も問題だが、高齢者人口の割合が現状の約20%から約40%に到達しようとしていることが、さらに困った問題。
さて、かつてこのグラフが作成されたときに「こんな危険なモノを国民に見せたらたいへんなことになるから、表には出さないように」ということになっていたらしい。ところが、政権交代で民主党(当時)の時代になって、「さすがにこれはマズイでしょう。このまま人口減少したら、日本の将来どうなるの?」という根拠として出回るようになったという。私にとってはものすごいインパクトということはなく、もしかしたら医療系では以前より知られたことだったからかもしれない。(個人的に改めてびっくりしたのは、第2次世界大戦の頃の人口減少は全体から見ればマイナーなものであったことだ。当時はまだ出生率も高く、乳幼児期の死亡率が非常に高かったからだろうか……)
日本という小さな国土で平地が少ない国を考えた場合、サステナブルな生態系として人間という環境に負荷をかける生き物の数がどの程度が適切なのか、つまり、例えば江戸時代の人口なら、いい塩梅にサステナブルなのか、などは不学にして知らないが、年代別人口構成を考えた場合に、働くことが困難な世代を支えるのに適切な就業人口が必要であることは自明である。外国人労働者を急激に受け入れるには種々のインフラ整備も必要であるし(東京2020オリンピックは、そのための準備段階とも言えるが)、300年以上も鎖国をしてきたメンタリティもあって、まずは自国の中で解決せねば、ということで、年金支給開始年齢は引き上げられ(支給を減らすという直接的な効果に加えて)、さらに「女性ももっと働いてね」ということになった。
野田議員曰く、国民の人口減少問題に対して「少子化対策」として捉えられており、「それは女性が産まないからでしょ?」という受け取られ方になってしまって、女性だけの問題になっていたことが大きなムーブメントにならなかった原因と分析(……でもそれって、想像力の欠如ですよね……)。現内閣も、「当初『女性の活躍促進』だったのだけど、このキャンペーンだと抵抗も多かったので、『一億総活躍!』に変わったのです」。こうして、女性の人権や参政権がフォーカスだった「フェミニズム」の時代から、雇用機会均等法に象徴される「男女共同参画」の時代を経て、今は「ダイバーシティ」がキーワードとなっている訳だ。ただし、「どんな組織でも人的構成の多様性が大事。多様性に配慮することが大事」という本来の哲学というよりも、「これまで働いていなかった人たちも働いてね!」という意味で。
人口減少、ワークフォースの減少を手っ取り早く改善するのなら、外国人労働者をもっと受け入れれば良いはずだ。だが、「目の前にいるワークフォースである女性や障害者を活用できない状態で、それは無理」と野田議員はバッサリ。
野田議員はすでに衆議院で連続8期の当選を果たし、1998年に37歳で郵政大臣に就任されたり(当時史上最年少!)、その後、内閣特命大臣も2回経験されているほどの経験をお持ちだが、ご自身が初めて議員になられた頃から、女性議員の割合はほとんど変わっておらず、未だに1割もいないと嘆かれる。現在、北欧のように女性議員の割合を規定する「クォータ制」の導入について議論が為されているというが、なかなか簡単なことではないようだ。
女性が働きやすくする上で「夫婦別姓」は一つの要素なのだが(すべてではない)、日本では明治時代の民法がほとんど改正されておらず、未だにそのまま。そういえば、本学法学研究科長もされた水野法子先生からもう10年以上前に「自民党議員の勉強会で夫婦別姓について説明したら、<そんなことをしたら、孝行娘が村八分になる!>といって怒られた」というエピソードを思い出す。マイナンバー制度にしたのだから、別姓になっても問題無いだろう。「非嫡出子の権利」は認められるようになった。もう一つの砦は「配偶者控除」。国会に女性議員がもっと多くなれば、このあたりも変わることが期待される。
「大学の無償化よりは、幼稚園、保育園の無償化の方が重要」とも言われた。幼児教育の程度と大人になってからの生活保護の割合に負の相関があるらしい(今度、データを探してみよう)。勉強したくない学生がモラトリアムに高学歴化することは確かにワークフォース減少に拍車をかける。ただし、大学院生への経済的支援は欧米並みになってほしいと個人的には考える。「男性の育休は100%保障すべき、液体ミルクの普及も育児のしやすさに繋がる」とも。
野田議員は「経営者が女性を活用した方が儲かる」と発想することが重要と指摘。「女性が参画したら、うまくいかないのではないか?という恐れから、お上から決められた数値目標に嫌々従うということになりがちなのは、成功例を知らないから」ということで、いくつかの会社の事例を挙げられた。「それって外資系だよね?」という予測を大いに裏切り、例えば某食品メーカーであったり、電気機器メーカーであったり、バリバリの純国産企業。
例えば
カルビーでは、
ジョンソン&ジョンソンから社長を招いて大成功。現在、管理職の女性率は二割、やがて三割になるが、7年連続の増益。働き方に柔軟性を持たせることが大事。営業職だったら、自宅から直接、顧客のところに行き、直帰して報告書は自宅で書けば、満員電車での通勤による体力・気力のロスも避けられる。
例えば
日本電産は「24時間働けますか?」的なポリシーだったのが、数年前に「残業0」を掲げるようになったという。その社長に「方針転換されたのですか?」と野田議員が問うと、「そうではなくて、
すでに日本人の割合が1割に減って、良い人財をグローバルに集めようと思ったときに出てきた方針が残業0だった」という答え。
つまり、トップがどう考えるかが重要なのだ。だが、野田議員曰く「現在、経団連メンバーもほとんど皆、男性社長、しかも叩き上げ。関係性に縛られるとリストラ含めて合理的な判断がしにくくなる」。また「むしろ、中小企業の方がこれからはトップがリーダーシップを発揮して良い改革がやりやすいはず。ダイバーシティを受け入れることは、むしろ男性の人生の支えになる。日本ほど自殺の多い国は無い。男性が幸せでない国には将来が無い」とも言われた。
講演の1時間があっという間で、すべてメモにすることはできなかったが、大いに刺激を受けた。野田議員には内閣特命科学技術担当大臣をされていた頃、2008年にお目にかかったことがある(実はアポイントの時間をミスるという大失態だったのだけど)。
本も出されて知られていることだが、生殖補助医療により卵子提供を受け高齢出産され、そのお子さんには種々の特別なケアが必要という状況が続いており、それでも政治家として活躍されているバイタリティには敬服するしか無い。ご自身が政治の世界でマイノリティであり、さらにハンディを持った人への理解も深いことは、野田議員のポリシーに影響を与えていると推測する。これからのご活躍に期待したい。
話は変わって、というか実は大いに関連するのだが、先週、
秋篠宮家の眞子さまが御結婚を予定されているというスクープが飛び出した。お若いカップル誕生はたいへん喜ばしいことなのだが、なぜこのタイミング? しかも正式なご婚約ご発表としてではなく……、ということの背景にはいろいろあるのだろう。ともあれ、日本での報道は「相手はどんな人か? どんなところでデートしたのか?」などのゴシップが多いように思うが、国外での報道は「
プリンセスが皇族から離れることになる」という点がタイトルになっているものがほとんどだ。
眞子さまと同世代の皇族の中で男性は唯一、悠仁さまだけなので、このまま「宮家を継げる、創設できるのは男子のみ」で続けると、皇族の数はどんどん減ってゆく。これまた冒頭の日本の人口動態と同様に火を見るより明らかな予測なのだが、なぜか「女性宮家」の問題についての議論も後回しにされてきた(直近では
民進党の中で議論されている。もしかしたら付帯決議に持ち込まれるかもしれない)。日本はつくづく、都合の悪いことは見ようとしない国だとしか言いようがない。
さらに言えば、「女性天皇」の問題や「女系天皇」の問題が控えている。今上天皇の御譲位に関しては、直近の実務的な問題として
19日に閣議決定されたが、もし我が国がローマ法王よりも長く続く皇室をこれからも維持したいと考えるのであれば、21世紀の社会状況や皇族の方々のお気持ちも踏まえた上で、ぜひ「生物学的な観点」も入れた議論をして頂きたいと願う。生物の世界では、(皇室問題に使うには乱暴な言葉ではあるが、ここでは敢えて使わせて頂くとして)「雑種強勢(すなわち純系は弱い)」は定説であり、DNAレベルでのダイバーシティが重要ということは了解事項である。
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