12月5日に上梓した
ちくま新書『脳の誕生――発生・発達・進化の謎を解く』は、お陰様で早くも重版出来となりました。POPも作って頂いて筑摩書房さんに感謝です♬
Kindle等の電子書籍版は12/22より配信とのこと。
本書の冒頭にも記していますが、「時間軸に沿った変化」に興味を抱いているので、現在のメインの研究対象である脳の発生・発達だけでなく、進化まで繋げた本を書きたいと思っていました。進化は個体発生が延々と繰り返されることによって生じます。また、前作
『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(講談社ブルーバックス)で扱った発達障害の原因として、「進化医学」的な観点も重要と考えています。
脳の発生・発達は壮大なドラマです。あるいは、数千人規模の楽団が奏でる交響曲です。一人ひとりの楽団員が機能を担うタンパク質だと思って頂けば良いでしょう。これらの楽団員には、一人ひとり、名前が付いている訳です。ところが、こういう固有名詞はどうしても、知らない人にとってはとっつきにくい。それをどの程度、削るのかがもっとも悩ましいことでした。
現在の生命科学の中心は「分子」であるため、発生発達の仕組の説明には、どうしても遺伝子やタンパク質といった分子の「固有名詞」が必要です。最初の草稿からは、かなり削ぎ落としたのですが、それでも、「神経発生といえば、必須の役者」の名前を削るには忍びず、なるほど医学部の学生さんに対して毎年行う発生学の講義で彼らが苦労するのも宜なるかなと、改めて思い至りました。
もう一つ、心を砕いたのは、「研究は人が行っている」ということを伝えたい、ということでした。歴史の分野では比較的、歴史を動かした人物が登場します。科学の世界も同様に、多数の研究者たちが日々、行う営みの結果として、教科書に残るような研究成果が結実するのです。そのような現場の臨場感のようなものが読者に届いたらいいなと思いました。
脳の発生・発達・進化の全体像は新書に盛り込むには壮大過ぎるテーマとも言えますが、その分、お得感満載かと思っています♬ 興味を抱いた方はぜひ、巻末に紹介している参考書まで手を伸ばして頂けたら幸いです。