連休は新潟出張だったので、お伴に『ゲノムが語る人類全史』を連れて行った。といっても紙の本ではなくiPadに入れたKindle版として。いつでもどこでもどの端末でも読めるというのは、むしろ旅先で読むのに便利。
最近、立て続けに同じような方向性でゲノムと人類史を語る書籍が出ているのは、2003年のヒトゲノム・プロジェクトの終了後に、さらに多数のゲノムを読む研究がまとまってきたからだと思う。本書の中でも英国内や欧州の、さらに世界規模の多様なヒトのゲノムを調べてその関係性を明らかにした研究がいくつか披露されている。例えば、人類がアフリカで生まれて世界に広がっていったことは、すでにご存知の方も多いだろう。ハプスブルク家がどのようにして途絶えたかについては、家系図より明らかではあるが、近親婚によりゲノムの多様性が失われることのリスクを表わす実例として取り上げられている。
さすが英国だと思うのは、英国王室構成員のゲノム解析が為され、王位継承についてのゲノム的な解釈などが示されていることなど。間もなく結婚するヘンリー王子のゲノムにはインドに由来する部分がある、などの意味に興味を持たれたら、ぜひ本書を読んで欲しい。
大きなメッセージとしては「ゲノムで見れば人種の差よりも同じ人種の中での個人の差の方が大きい」という点に尽きるだろう。ヘイト・クライムが横行する中、ゲノムの理解を通じて多様性が尊重される社会になることを望む。
著者の
アダム・ラザフォード博士は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の医学部に入学した後に遺伝学に転向し、
CHX10という眼の発生に関わる遺伝子について、ヒトにおける疾患(小眼球症)と原因となる変異についての研究をされた。同じくもともとは眼の誕生に必須の遺伝子として見つかった
PAX6を追いかけている自分として親近感がある。物理学のアーネスト・ラザフォードは親戚らしい。
サイエンスライターとしての活躍のみならず、BBCの科学番組のキャスターなどもされているとのこと。Natureの編集者などの経験もある。科学を社会で支えるのにも、研究者だけでなく多様な人材が必要。