編集者のお一人である長谷川寿一先生にお声がけ頂き、
『言語と生物学(シリーズ朝倉「言語の可能性」)』に1章、執筆させて頂いたのが2010年。あっという間に8年です。
物心ついたときから「コトバ」が好きで、高校生の頃には言語学なども面白そうと思っていたのですが、大学へは理系進学。当時は言語を生物学の俎上に載せるなんてできないのだろうと思っていました。
それからウン十年(笑)の間に、私はまったく異なる神経発生の領域で研究していましたが、他の研究者により歌を歌う鳥の研究などが進み、「文法の遺伝子(当時)」としてFOXP2が見つかったりして、言語というテーマは極めて学際的なものとなりました。
現在、うちの研究室でも、赤ちゃんの泣き声に対応し、母仔コミュニケーションと考えられる母子分離超音波発声(ultrasound vocalization; USV)について、マウスを用いた研究を行っています。例えば、父加齢によって仔マウスの鳴き方が変わるようです。また、仔マウスのUSVの頻度と成体になってからの社会性行動の間に相関性があることも見出しています(
Yoshizaki et al., PLoS ONE, 2017)。
昨年、東京大学の岡ノ谷一夫先生が代表の新学術領域
「共創的コミュニケーションのための言語進化学」が立ち上がり、来年からは公募研究も加わってさらに大きな潮流が生まれるものと期待されます。こちらの新学術領域との合同のシンポジウムなども企画したいと、領域代表者同士で話しています。
一番最初、どのように岡ノ谷先生にお目にかかったのか覚えていないのですが、「大隅さん、FOXP2について話してもらえませんか?」と進化学会でのシンポジウムに呼ばれ、ご一緒させて頂いたあたりが馴れ初めです。冒頭の書籍執筆に繋がったのもそういう経緯だったかと。あ、長谷川先生は(ご夫妻ともに)高校の先輩という関係性もあり。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチの中に「Connecting the dots」というフレーズがあります。一つ一つの点はそのときには繋がるかどうかは予測できないものですが、一つの点が後から振返ると、次の点の布石となっていて繋がるのだということを実感します。