中学の頃から『食品標準成分表』を見るのが好きで、大学時代には女子栄養大学出版部の発行する
『栄養と料理』を毎月愛読していたのですが、最近は離れていました。そんな折、
『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』という本の存在を知り、昨日からの出張のお供に連れてきて読了。
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生という方が、前述の『栄養と料理』に連載している「一枚の図からはじめるEBN 佐々木敏がズバリ読む栄養データ」という記事をベースに加筆された本とのこと。EBNとはEvidence Based Nutritionの略で、医学で使われるEBM(Evidence Based Medicine)からの造語。表紙はピーター・ブリューゲル(父)の「農民の婚宴」。ご留学先がベルギーのルーベン大学であったことからブリューゲル好きのようです。
各章の最初に導入として栄養知識に関するクイズがあり、本文に合わせて多数のグラフがエビデンス(証拠)として提示され、さらに根拠となる論文等の出典が示されているというスタイルで、一般向けの科学の啓発書として理想に近い形だと思います。
第一章が脂質に関して、第二章は食塩、第三章がBMI、第四章がアルコール、第五章は地中海食と続き、最終の第六章では正しい栄養情報を得るための手段として、医学論文データベースPubMedの使い方まで示されます。機能性食品についてのガイドラインが変わり、それぞれの企業の責任において「データ」を示すことによって消費者庁への届け出により食品に「機能性」の表示を付しても良いということになった現在、正しくデータを読み取ることがより重要になってきました。本書はそのような賢い消費者に向けた指南書と言えます。
個人的には、脂質に関する基礎研究を行っている立場から言えば、第一章の「あぶらと脂質異常症の関係」において、不飽和脂肪酸の種類(オメガ3とオメガ6)によっても機能が異なる点まで盛り込んでほしいところですが、本書の初版が2015年ということもあり、現時点でもまだまだヒトでのエビデンスが足りていないものと思われます。
一端折って中身を知りたい方のために、エッセンスをちょっとだけお伝えするとすれば、血中コレステロール(リポたんぱくコレステロール)を下げるために有効なのは、肉や動物性油脂に多い飽和脂肪酸を減らし、植物性油脂に多い不飽和脂肪酸を多くすることです。トランス型脂肪酸(マーガリンなど)は飽和脂肪酸よりもリポたんぱくコレステロールを上昇させるという事実はありますが、日本人のトランス型脂肪酸摂取量の平均値からみれば、微々たる作用と考えられます。血中コレステロールの値と死亡率については、いろいろな交絡因子があるので、一見、血中コレステロール値が低めのヒトの方が相対的な死亡率が高く見えますが、一筋縄にはいきません。ちなみに、中性脂肪の値が気になる方は、むしろ炭水化物の過剰摂取を避けることが重要。
なお、本書の続編として
『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』も出版されていますが、やや各論的なので、読む順番としては先に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』の方を読むべきです。例えば、続編の方には「卵とコレステロール」についての1章があり、結論だけ言えば、一日あたりに換算して卵1個半くらいであれば、血中コレステロールが上がることには繋がらないと考えて良いと思われます。発生学を専攻した私としては、「卵はヒナが孵化するのに必要な栄養が備わっている」、安価でバランスの良い食材と考えます。
続編の方の表紙も同じ作家で「怠け者の天国」という作品。