前回の拙ブログ記事
「平昌オリンピックの成果から科学のサステナブルな発展を考えてみた(その1)」に続いて、もう少し考えてみた。
いずれ元記事が消えてしまうかもしれないことも考慮して、考えるきっかけとなった記事をこちらにも残しておく。朝日新聞web版で以下のような麻生大臣の発言を読んだ。
麻生太郎財務相(発言録)
(平昌五輪で冬季最多の13個のメダルを獲得したことについて)やっぱりきちんとした成果を生むんだったら、資金を集中させる、選択と集中は絶対大事だという話をだいぶ前に、(参院議員で元スピードスケート選手の)橋本聖子先生とさせてもらった。それは着々と進んだんですよ。例えば、日本スキー協会はノルディックに資金を集中させ、(複合の個人ノーマルヒルで渡部暁斗選手が)メダルをとった。そういったのが、成果として出てきている。
どこにカネをかけているかと言ったら、コーチにカネをかけた。カーリングも外国人。コーチとか、そういうものの大事さっていうのをおよそ理解してないとダメです。(閣議後の記者会見で)
アスリートにとってコーチの存在は大きい。確かに前回フォーカスした羽生選手もソチオリンピック前からブライアン・オーサーというカナダのコーチに師事しているし、英国にギリギリで勝利して銅メダルを手にしたカーリング女子のコーチはジェームス・ダグラス・リンド氏という、やはりカナダの方。ここでは、カナダかどうかを問題にしたいのではない。麻生大臣の発言からは「外国人コーチを雇う」ところにお金をかけた点が良かったと考えられているらしいということを議論の出発点とする。(画像は長田洋平/アフロスポーツ撮影のものを、
sportsnaviのサイトより拝借しております)
確かにカーリングは日本ではまだまだ歴史も浅く、教える立場でメダルを取った方は過去にはいない。だから外国人から選ばれるのは当然なのだが、外国人コーチの方が日本語を話せるとは思えないので、英語で指導を受ける、ましてや、英語を母語とする方であればなおのこと、その発音はむしろ聞き取りにくい。なので、たぶんスポーツ翻訳などを専門とする方が、さらに間に入っているようだ。羽生選手の場合、インタビューでも、あまり英語で受け答えはしていなかったから、世界各国での試合に臨んで経験を積んでいるとはいえ、英語力が素晴らしいという訳ではないのだが、
言葉の壁があっても良いコーチは良いアスリートを育てられる。
それは、スポーツの世界は言語化されない部分でほとんど成り立っているからなのだろう。では翻って、サイエンスの世界はどうか?
どのくらいの割合なのかは分野によっても違うだろうが、サイエンスも言葉が必要ない部分もある。数字や数式は世界共通語(←いいなぁ)として、実験科学の「実験」の部分は、乱暴に言えば言葉がわからなくても(数字や最低限の数式の理解は必要。念のため)コーチのやり方を見よう見まねにして習うことができて、自分でデータを出すことは可能だろう。
だが、サイエンスの成果を外に出すとき、言語が必須となる。言葉にしなければ伝わらない。過日のセミナーでJudy野口先生は「No language, no fact」という言葉を引用されていた。測定できれば良い、生成できれば良いという世界では言語の重要度は低く、得られた結果をもとに行う考察がより必要な、いわば曖昧さが残る分野では、どのようにうまく言語化できるかが評価の鍵となる。つまり、言葉の重要性という意味では、
数学<物理学≦化学<生命科学
のようになっている気がする。なので、高校や予備校の先生方に声を大にして言いたいのだが、「理系でも英語や国語は大事なスキルです!」。
話をコーチに戻すとして、良いコーチとは何だろう? フィギュアスケートのような激烈な競争世界の中では、アスリートの良さをどのように引き出せるのか、ほとんど紙一重の実力差の選手たちをうまく導けるかどうかは、相性のようなものもあるだろうし、観察力、客観力、励ましや苦言の伝え方(言葉だけではなく)に加えて、コーチ自身の人間性、センス、信頼度などが複合的に合わさったものだろう。おそらく人工知能にとって不得意な部分をすべて合わせたような能力がコーチには求められるのではないだろうか?
サイエンスの世界では、コーチの役割は研究室の指導教員や他分野のメンター教員が担う。上記のようなアスリートのコーチに必要な能力という意味では、世界は違っても同じなのかもしれない。
ところで、正式なメンターではない研究者にだってアドバイスを求めることは可能だ。サイエンスの本業というか根本的な部分は、「誰が最初にゴールラインを超えたか」ではないので、そもそもスポーツと比較するのに無理な面も多いが、近いところとしては、(いきなり話が具体的すぎるが)学術振興会の博士研究員(DC1、DC2、PD、RPD)の申請などであれば、経験の豊富な教授に申請書の書き方や面接時のパワポの作り方などのコーチングを受けることはできる。「申請書・パワポを見て頂けないでしょうか?」とお願いのメールをするかしないかで運命が分かれる可能性があるのなら、するに越したことはないだろう。