ワンダーを観てきた

全世界で今では800万冊も読まれている児童書『Wonder』(邦題『
ワンダー きっと、ふるえる』)を元にした映画「ワンダー 君は太陽」が先の週末、日本でも公開され、仙台のTOHOシネマズで観てきました。日本語の翻訳にあたり、ほんの少しお手伝いさせて頂いたこともあり、この映画を観ることがとても楽しみでした。
どこにでもいる普通の男の子、ただし「顔」以外、という主人公は、児童書の中ではなかなかありそうで無かった設定です。この主人公、オーガスト・プルマン(オギー)は、1万人に1人という「
トリーチャー・コリンズ症候群」という疾患により、特徴的な顔貌(目が垂れている、耳たぶの形が異なる、頬の骨が発達していないなど)を持ちます。顔はパーソナリティの表出の一部であり、アイデンティティに深く関わるため、顔の正常な発生が損なわれることは、子どもの人格形成や社会性に大きな影響があると考えられます。
トリーチャー・コリンズ症候群は、ほとんどがTCOF1という名前の遺伝子に変異があることによって生じることがわかっています。映画の中でも、オギーの姉のオリヴィア・プルマン(ヴィア)がボーイフレンドのジャスティンに、「たまたま両親それぞれの遺伝子の片方に傷があって、オギーは運悪く、その両方を引き当ててしまった。自分ももしかしたらそうなった可能性がある」と説明しています。遺伝子は父方・母方由来の2つをセットで持っていますが、精子・卵子が作られるときに変異を持つ遺伝子が受け継がれるか・受け継がれないか、そして受精の際にそのどちらの精子・卵子が合わさって次の個体の発生が始まるかは、人為的にコントロールできるものではありません。
オギーは
ジェイコブ・トレンブレイというカナダの子役が好演していましたが、実際にトリーチャー・コリンズの人たちとも交流して役作りについて種々のアドバイスをもらい、撮影の日には2時間かかる特殊メイクをして臨んだそうです。
母親のイザベルを演じたのはジュリア・ロバーツ、父親のネートはオーウェン・ウィルソンで、この両親の深い愛情については、本よりも映画の方が強く感じられたのは、やはり演技やカメラワークの力なのかもしれません。映像は強し。キャラクターで以外だったのは、ブラウン先生。原著で想像していたのは、もっと年配の方でしたが、ウォール街勤務から教師に転身したという設定の若い方でした。
物語はオギーの視点だけでなく、オギーの同級生たちの最初の困惑、理解、意図せぬいじめ、仲直りなどの様子が、友達側からも描かれます。また、思春期の姉ヴィアとその親友ミランダとの間のわだかまり、ジャスティンに惹かれる過程など、いくつものエピソードが織り込まれています。原著には続編があるので、さらにそちらも映画化されると良いですね。
原著を読んでいたので、予定調和的に落涙でしたが、そうでなくてもきっと思わず涙が溢れることと思います。担当している医学部・歯学部の発生学講義でも紹介するつもりです。
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