『脳が壊れる』と
『脳は回復する』という新潮新書を書かれた鈴木大介氏の単行本
『されど愛しきお妻様』(講談社)をKindle版で過日読了していたのでご紹介。(書影はAmazonより転載)

拙ブログで過日紹介した新潮新書2冊は、脳梗塞により高次脳機能障害を経験した著者の闘病記や気付きが中心であったが、本書はその新書の中でも触れられていた著者の「お妻様」の方に軸足を置いている。その「お妻様」は「発達障害」を抱えたアラフォーの女性。
本書ではその馴れ初めから結婚に至るまでのエピソードとして、「お妻様」がどのように「定形」ではないのかが語られ、「シングルインカム+家事ワンオペ」で頑張って働きまくった挙げ句に脳梗塞に倒れた著者が、高次脳機能障害と発達障害の間に共通する症状があることを実体験として認識して、お妻様からは「やっとあたし(ら)がわかったか」を言われる。やがて、著者がリハビリする過程で、どのようにすれば「発達障害」を持った家族を理解して、一緒に家事を行うことができるかという試行錯誤の末に、鈴木家としてのフォーメーションが整えられていく。
ポイントは、ざっくりとしたタスクの指示(例えば、「洗濯物片付けて」)ではなく、細かいタスクに分け(まず「洗濯機の中のモノを出して」、次に「それらを畳んで」、そして「クロゼットに入れて」)、「1つずつ」伝えることに尽きる。途中で注意が他に向いてしまうこともあるからだ。
本書の最後の方で、著者は「不自由を障害にするのは環境だ」という視座にたどり着いたことに触れている。これは、先日、
3月に主催した市民公開講演会で熊谷晋一郎先生も話しておられたことだ。
「発達障害」の方が抱える不自由さは、持って生まれた性質(脳の発生発達過程の問題)や、「お妻様」の場合のように、そこに適切な学習の機会が得にくかったことなどの要因もあり、簡単に矯正できるものではない(とはいえ、「お妻様」にもできることが増えていると筆者は記している)。一方、筆者は後天的に脳梗塞の後、見た目にはわかりづらい「高次脳機能障害」と呼ばれる不自由さを経験することになった。それは徐々に回復傾向にあるが、今後、加齢が進行していけば、そのことによっても普通のことが普通にできなくなる可能性はある。そして、そのような加齢に伴う不自由さは、誰の身にも起きうるのだ。
急激な高齢化の真っ只中にある日本において、不自由さを抱えた方を排除するのではなく、それぞれの「個性」を大切にしながら、どのように共に生きるかを考えることが大事だと改めて思う。
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