昨日の都内用務は母校での会議。
東京医科歯科大学+順天堂大学+株式会社ニッピによる「ダイバーシティ・ダイヤモンド(DD)ユニット事業」という女性研究者の育成促進プロジェクトの外部評価委員として出席した。
この事業は文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(連携型)」として行われており、平成27年に開始したDDユニット事業は昨年、中間評価を受けたところ。これからの3年間は国からの支援無しに継続することが義務付けられている。東京医科歯科大学と順天堂大学は隣同士でともに医療系の大学であり、連携して
「ファミリーサポート」システムを運営している。ニッピとは共同研究促進などに関して協力関係にある。
会議では女性研究者の上位職比率がなかなか向上しないのはなぜか、ファミサポシステムをどのように運用すればよいのかなどについて、活発な意見交換が為された。
折しも、某大学医学部で入学試験時に女性の受験者に対する差別が行われたということが認定され、社会的な問題となっている。「女子学生を育てても、出産・育児等で離職しがちなので、入学を制限する」というのは、医療従事者の過酷な労働環境の改善(男女問わず)を先送りにし、試験の成績が劣っていた男子学生に下駄をはかせて入学させて医者にするという意味で、何重にも国民の不利益になる。
今回の事件を特異的な事例として扱うべきではない。
下記に引用している元自治医科大学医学部長の桃井真理子先生の資料によれば、米国では1960年代に男子学生に対する優遇が為されていたが、1970年に「Women's Equity Action」として全医学部が性差別で告訴されたことを受け、1972年に大学を含むすべての職場・職業からの性差別の撤廃が公民権法の改訂として為されたという歴史がある。日本では、戦後、アメリカに追いつけ追い越せという時代に、いわば効率重視のいびつな体制を推進したため、性別役割分担意識を変えるチャンスを逸したのかもしれない。2020年が近付こうとしているのに、我が国の実態は米国の60年前の段階と認識した方が良い。
家事・育児・介護のかなりの部分を女性に担わせたまま、「同等に働く」ことを女性に求めるのは間違っている。何より、男性が可愛い子どもとともに過ごす時間を奪われているのは残念なことだ。OECDの調査では、一日あたりの労働時間は(バカンスの分も入れて割り算すると)、フランスの男性は日本の男性の半分の時間しか働いていない。それでも国家は成り立っているし、出生率の低下も回復させている。就労時間を減らし、家族と過ごす時間を増やすことは、首都圏の通勤混雑の緩和、ストレスの減少になるだろう。日本の「OS昭和」に基づく制度設計を変えることこそが、国民総活躍に繋がるはずだ。「働き方改革」の一丁目一番地はここにある。
医学部では入り口制限が行われてきたが、農学部や薬学部などでは女子学生の入学比率は高いものの、上位職が極端に少ないという問題がある。理学部や工学部はそもそも圧倒的に女性の入学比率が少ないという点で人的ダイバーシティに欠ける。理系の女性が理工系を避けて免許が取れる医歯薬獣などの分野に進学しがちであることも、人的資源の活用としてもったいないことをしている可能性があるだろう。
大事なことなので繰り返す。今回の件は、一大学の不祥事として非難するのではなく、我が国全体の共同参画の問題として捉えるべきである。
【参考サイト】
大学入試全体と医学系との比較
これが早々に出たことは立派
種々の情報へのリンクが豊富
「女医が増えても世界は崩壊しない」というサブタイトルが一番刺さりました
自治医科大学の医学部長も務められた桃井先生の資料を見るに、8年前から実態がほとんど変わっていないという衝撃……
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追記(2018.8.10)
上記のREITI記事に掲載されていた年代別医師の離職率の男女差はこちらのグラフ。

縦軸が40%から100%となっていて、女性の76.0%がとても落ち込んでいる(女性は男性も非常に多く離職する)ように印象操作されているように見えますね……。実際には、76%の女性医師は仕事を続けているのです。
どのような背景があるにせよ、学校基本調査による医学部入学者の女性の割合が35%程度で上げ止まっているということは事実ですね。