顔面移植

National Geographic(英語版の方)の9月号の特集記事は衝撃的だった。18歳のときに衝動的に自殺を図ってライフル銃で顔面の中心部を失い、21歳のときにClieveland Clinicで移植を受けたKatieという女性の話。2017年の5月、これが米国で最年少での顔面移植となった。(サムネイル用の画像は、Amazonのサイトより拝借)
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毎年、歯学部の人体発生学の講義では顔面発生を重く扱うのだが、その導入の折に、人間にとって「顔」がどのような意味を持つのか、唇顎口蓋裂の子どもの顔写真を見せながら問いかけるのが常だ。顔は身体の中のどのパーツよりも、その個人のアイデンティティに関わる。

Katieに移植された顔面の元の持ち主は、Adreaという女性。祖母の話によれば、Adreaの母が薬物依存で、彼女もまた同様であったらしい。リハビリ中ではあったが、薬物の過剰摂取によって戻らぬ人となった。祖母の同意によりAdreaの顔面、すなわち皮膚、筋肉、軟骨、軟口蓋、そして血管や神経もKatieに移植された。当初の予定よりも大きな部分が使われた。

8ヶ月後、KatieはAdreaの祖母、Sandraに会いに行く。Sandraにとって、孫娘の顔が移植されたKatieは、Sandraの面影があるものの、異なるアイデンティティの女性として受入れられた。確かに、Katieにとっても、移植された顔面は徐々に自分のものとなっていく過程にある。それは仮面ではなく、ハイブリッドとなるのだ。顔面を失うまでのKatieほどの美人ではないとしても、ぎょっとして見られることがないくらいの顔を持つことが、顔を失ったKatieにとっての夢だった。

記事の中には、移植前9ヶ月のKatieが父親とダンスを踊るところの画像が載っている。きっと、父親の脳には顔を失う前のKatieが映っているのだろうと思った。それは、移植後もそうなのかもしれないが、きっと家族も徐々に、新たなKatieの顔に馴染んで、それをアイデンティティと思うようになるのだろう。

記事の中では、他に3名の顔面移植を受けた方の例が取り上げられていたが、そのうち2名がやはり銃の事故だというのが痛ましい。それにしても、National Geographic誌は攻める雑誌だと思った。画像のクォリティが良いからなおのこと、顔面移植のビフォーとアフターが刺さった。ちなみに、Katieの術後のケアに関しては、国防省が支援しているとのこと。戦闘で負傷した軍人への応用を考えてのこと。

内容は以下のサイトで読めます。動画もあり(オペなど苦手な方は閲覧注意)。

by osumi1128 | 2018-09-03 07:32 | サイエンス | Comments(0)

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