江藤研40周年&江藤先生喜寿のお祝い会に行ってきた

大学院から助手の時代、計12年(も)過ごした出身研究室が設立40周年、かつ、初代教授であった江藤一洋先生がまもなく喜寿を迎えられるということで、昨日、お祝い会がありました。1年以上前から計画されていたことで、今年の本学111周年ホームカミングデーに出席できず……。

懇談の食事会の前にミニシンポジウムとして4名の同窓生がトークをしました。


お祝い会ということで、昔のメンバーも集まることから、アルバムを引っ張り出して古い写真などを配したPPTを準備して臨みましたが、飯村さん、青戸さんはかなりガチなサイエンスの話をされました。

元山さんは、「これからの発生学」のオーバービューとして、「物語を語る発生学はもう終わり」という話をし、最後は自分で最近行っている実験結果(脳の発生過程におけるCaイメージングなど)を紹介していました。あと、なんと現在は教育担当として、インドネシアに優秀な学生さんをリクルートしに言っているなども。江藤先生がすでに30年も前にアジアとの交流を積極的に進めたことを横目で見ていたことも影響しているのでしょう。

さて、「物語る時代は終わり」というのは、生物学全体に言えることだと思っています。

古典的なリベラルアーツに含まれていた数学・天文学から下って物理学が生まれ、生物学が学問になってきたのは、たかだか3世紀くらいの歴史しかありません。過日、ご紹介した花輪先生の『若き研究者の皆さんへ〜青葉の杜からのメッセージ〜』の73番目のエッセイ「科学の進展における<武谷三段階論>」によれば、科学は第一段階が「現象の記述」、第二段階が「法則を得る」、第三段階が「法則の普遍化」とでもまとめられるということで、まぁ、遅れて生まれた生物学・生命科学は、ようやくこれから第二段階に進めるくらいの段階に到達しつつあるのかな、と思います。

その意味で、物理学のように理論を考える科学者と実験を行う科学者が役割分担し、「理論生物学者」が膨大なデータや多数の論文からより普遍的な課題を見出し、十分検証するに足る仮説を立てた上で、「実験生物学者」が新規技術・装置を開発し、正しい結果が得られるような種々の工夫を行って検証するということが必要なのではないかと考えます。そうでないと、お金も無駄にかかりますしね……。

井関さんからは、研究室の変遷や現在の研究室の様子などをご紹介頂き、自分のトークはタイトルを「顔面発生から超音波発声まで:江藤先生から学んだこと」とし、研究の原点が江藤研での体験にあることから、現在の研究まで、ジョークを入れつつ話しました。

1枚だけ使ったPPTスライドをご紹介。
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アニメーションで1行ずつ示していったのですが、冒頭の「女性は男性の2倍の業績が必要」というのは、大学院を受けたいと面接に行ったときのエピソード。当時、他に同じ母校の臨床系の医局にも伺ったのですが、「女子の大学院生は取らないから」と門前払いされ、テニス部の先輩でもあった、親切研究室の江藤先生のところを訪ねたところ、「女性が、研究・教育に加えて臨床もするのはたいへんだろうから、基礎にしなさい」という言葉の次に言われたことでした。

まぁ、今ならpolitically incorrectですが、当時は「ふーん、そんなものか。まぁ、2倍は物理的に無理だから、1.5倍くらいを目指そう」と考えて現在に至るので、そういう意味では適切なアドバイスであったのだと感謝しています。

その他、最後の2つは助手の頃にはピンとこなかったことですが、研究室を主宰するようになって実感できました。なので、今は相手がわからなくても言い続けるしかないと腹を据えています。つまり、ちょっと生命科学的な比喩として言うなら、レセプターが発現するようになるのはいつかわからないけど、リガンドのシャワーは浴びせること、きっと内部でエピジェネティックな変化は起きているはず、ってことですね。

さて、江藤先生のお言葉に戻って「(ユニークであれ!)」というのは、直接、そう言われた訳ではなくて、江藤研に集まる方々が皆、個性的であったことや、江藤先生ご自身の生き方がユニークであったことから学んだことですが、それは今回、集まった方々を見ても、やはりなるほどと思いました。
江藤研40周年&江藤先生喜寿のお祝い会に行ってきた_d0028322_09345105.jpg
ところで、私の東北大学着任が1998年11月1日で、大学院生が加わったのが1999年の4月からでしたので、うちのラボもそろそろ20周年ということになります。感慨深いものがありますね……。

もう一枚、画像追加。大学院に入ったばかりの頃、先生の下のお嬢さんも交えてラボメンバーでディズニーランドへ。まだ江藤先生が歯学部長などをされる前で余裕がありましたね。
江藤研40周年&江藤先生喜寿のお祝い会に行ってきた_d0028322_10294849.jpg
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「女性は男性の2倍の業績が必要」というスライドを出したら、井関さんはじめ皆が「えー、3倍だったんじゃなかったでしたっけ?」と言うので、拙ブログを検索したところ、以下のポストを発見。

拙ブログ:仕事の流儀:コンピュータ研究者石井裕(2007.2.9)

実は、その石井先生とは2010年にボストンでお目にかかることができ、今年12月に東北大学にお呼びする予定です♫ 「会いたいと思う人には自分から会いに行く」というのは私の流儀です。


by osumi1128 | 2018-09-30 09:39 | ロールモデル

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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