10月5日のサザビーズで、バンクシー(Banksy)というアーティストの「Girl with a Baloon」という作品が、約1億5000万円で落札。そのハンマーの音を合図に、壁に掛けられていたフレームから作品がずるずると下がりながら短冊に裁断されていく……という動画がこの数日、バズっている。(
画像はサザビーズのサイトより)
匿名の(複数名のユニットという説もあり)バンクシーはストリート・アートが有名で、政治的なメッセージも強い。
「Girl with a Baloon」はバンクシーのレガシーともいえるモチーフで、プリントだったり、壁に描かれたものだったり、少しずつ異なる多数の作品がある。もともとは2011年のシリア内戦に対する反戦メッセージが込められているとのこと。さらに、2017年6月には「保守党以外に投票したら少女と風船の作品を無料で進呈する」という企画(!)が計画されたのだが、これは選挙違反にあたるということで撤回された。
今回、オークションで「風船を持った少女」が落札されて、さらにそれがバンクシーにより予めフレームに仕込まれたシュレッダーによって裁断されるという「事件」は、バンクシーの個性を一段と際立たせたことになるが、シュレッダーされた作品の価値も、さらに高まったかもしれない。
美術館に掛けられた名画が、強盗によって盗まれたり、火災報知器が作動してスプリンクラーが回って、流れた絵の下に本当の作品が現れたり……というようなストーリーの映画はあったが(今、調べてみたら「
The Thomas Crown Affair」だった)、まさかリアルにこんなことが起きるとは、そしてそのメイキングを含む動画(
例えばこちらのGuardianのサイト参照)があっという間にYouTubeに上げられるとは……。こうした全体の営みがアートになるのが現代という時代なのかもしれない。
……それで久しぶりに「赤い風船を持った少女」の画像をネット検索して、つらつら眺めて、これってどこかで見た構図に近い……と思い出したのは……
そう、くまのプーさん。(画像は「
プーとおとなになった僕」というディズニー実写アニメ映画の日本語版サイトより拝借)
映画の中では、赤い風船が鍵となっていて、主人公、おとなになったクリストファー・ロビン(Christpher Robin)の娘、マデリン(Madeline)という少女が風船で遊ぶシーンがある。バックグランドに流れる音楽は「
マデリンの赤い風船」というタイトルでサウンドトラックに収録されている。クリストファー・ロビンがロンドンの駅でプーのために買って、サザンプトンの昔の家や、プーやその仲間たちと遊んだ「100エーカーの森」に持って帰った赤い風船は、「無くしてはいけないピュアな心」の象徴のように扱われている。
ちなみに、最初に書かれた1926年の本『Winnie-the-Pooh』では、挿絵はカラーではない。プーさんの風船は蜂蜜を取るために使われた。そして、ディズニー映画になった当初、赤いセーターを着たプーさんが持っていたのは青い風船。でも実写版映画としては、全体的に英国のやや暗い雰囲気の色調の中では、確かに青よりも赤の方が目立つ。例えば以下のようなシーンには、やっぱり赤い風船でしょう(ただし、色覚バリアフリー的にはどうなのか……)。
どの時点で赤に変わっていったのかは、人文社会学的な研究テーマとして面白そう。(画像はクレジット・フリーのもの)