SfN2018@サンディエゴのPECC会議に参加した

北米神経科学学会は参加者数3万人くらいの巨大学会で、15年前くらいから参加している。神経発生の分野から精神疾患の動物モデルの研究への進出を考えたときに、このような大きな学会は全体的な動向を探るのに適していたのだ。多数のポスターや口頭発表(今ではnanosymposiumと呼ばれている)がいわばshow-casesのように並んでいるし、その年ごとに選ばれる各種の特別講演者が、数千人入る大会場で発表するのは圧巻。さぞかしprestigiousなことと思う(今年のサンディエゴ大会ではフロリダのMax Planck Institute所長の安田涼平さんがPresidential Lectureで話される)。

さて、数年前にInternational Affair Committee(IAC)のちにGlobal Membership Committee(GMC)となった委員会の委員を務めたが、今期からはPublic Education & Communication Committee(PECC)のメンバーとなり、今朝、7:30(!)からの会議に参加した。GMCは北米(=米国とカナダ)以外のメンバーもそれなりに多かったのだが、PECCの方は、他国からはスウェーデン、オーストラリア、そして日本のみ(なので、会議の英語のスピードが早い……)。参加者の中で中国等のアジア諸国からの参加が増えているものと思うが(non-USの参加は約40%)、今のところ、まだ北米以外の国として参加者がもっとも多いのが日本であるからかもしれない。
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2013年に初めてIACの会議に出たときにも感じたが、こちらの学会がアウトリーチ活動にかける熱意は極めて大きい。今回も、種々の紙媒体のクォリティの高さに感じ入り、一般向けのウェブサイトbrainfacts.org(←研究者向けのsfn.orgとは別に用意されている)のユーザ数が900万人、ページビュー数は179,000,000という数に圧倒される。もちろん、Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSでの拡散も積極的。日本は30年くらい遅れていると思う。

今回配られていた紙媒体は、学会案内(財務関係等の細かい数字は別冊子として挟み込まれている。表紙も凝っていた)、新たに更新されたBrain Factsという一般向けの冊子(こればBrain Beeの大会に使われる)、自閉症その他の疾患についての簡単な説明用三つ折りパンフレット各種、子ども向け神経科学イベント等で配布する錯視に気づくためのグッズ(画像参照)。

実は来年、SfNは創立50周年というこで、アウトリーチにはいつも以上の気合が入っているようだ。2019年の大会がシカゴなのだが、「劇場でSfNイベントを行ったらどうか?」、「"What is Brain? @SfN"など3秒のコマーシャルを打ってはどうか?」などの意見が活発に出されていた。事務局からは、「1年間、DCのオフィスビルを50周年記念パッケージでデコレーションするというアイディアがあります」とのことだった。それは楽しそう。銀座のブランドビルみたいな感じを想像してみる……。

これらの活動を支えているのは多数のSfN職員だ。全体で100人くらいいるはずで、そのうちアウトリーチ関係のチームは20人くらいだったか。会議に委員会メンバーと同席していたのは10名未満だったと思うが、委員と対等な立場で会議を行うということも大事なポイントだと感じる。

日本の神経科学学会は設立41年、会員数が6,000名で事務局には4〜5名が勤務しているが、広報の専門性を持った方はおられない。サイズ効果もあるので難しいが、本来なら20名くらいの人が学会事務局で働いていても良いはずだ。私が所属する他の学会でも、会員数1.3万人の日本分子生物学会でさえ事務局のサイズは同じくらいである。日本の研究者の学会に対する意識が低いことを常々、嘆いているのだが、ほとんど同意してもらえない。

SfNがPECCという委員会を設けているのは、神経科学の「教育」が次世代の神経科学研究者を生み出すことに必要であり、さらに「科学コミュニケーション」の一環として一般向けの啓発や政治家へのアドボカシーが、研究費を得て研究を支えるために必須であると強く認識しているからだ。恐らく他の学術団体も同様の戦略を展開しているだろう。

日本の学会で「事務局を強くしましょう。そのためには会費や参加費の値上げも必要です」と強く主張するものの、理事会等では「いやー、大隅さん、そんなこと言ったって、会費を値上げしたら会員が減るから無理ですよ」と一笑に付される。我が国で(とくに生命科学業界で)健全なアドボカシーが育たないのは、徳川時代のシステムがサステナブル過ぎたせいだろうか……。今年は「明治維新150年(東北地方では「戊辰戦争150年」が一般的)」というが、今、新たな意識改革が必要なのではないかという思いを強くした。

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関連拙ブログ:
ちょうどこのときもサンディエゴでした。

3月の委員会会議はそれぞれの日程でワシントンDCの神経科学学会オフィスで行われます。自社ビルです。

このときは委員会からは外れていたかも。


by osumi1128 | 2018-11-08 08:19 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)

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