オープンアクセス(OA)促進に関するセミナーで話した

「OA」と聞けば、一般の方は「オフィスオートメーション」をまず思い浮かべるだろう。だが、図書館業界では「OA」とは「オープンアクセス」の意味で注目されている。「OA2020」としてオープンアクセスの推進が今、求められている。
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単に紙媒体としての書籍や雑誌を保管し、閲覧・貸出し等のサービスを行うという図書館のイメージはすでに過去のものだ。現在の図書館では電子媒体のコンテンツがどんどん増加している。ディジタルな電子ジャーナルになって、より広く智が浸透するということが期待されたが、実は、電子ジャーナルの「購読料」が高騰することによって、「うちの大学ではその雑誌、ダウンロードできないんだよね……」という状態が生じている。国立大学でも、毎年、予算が削られる中、どのように電子ジャーナル購読を維持するのかが大きな問題となっている。

しかも、実は研究者側からはもう一つの側面があって、それは「投稿料・論文掲載料(APC)」という形で論文を出版する際に、場合によっては多額のAPCを支払う必要がある。したがって、大学という立場で言えば、購読料とAPCを二重に支払っているのだ。(もちろん、現在の出版社は単に論文を掲載しているだけでなく、さまざまな分析サービスなども提供しているのだが、その話は置いてお。く)


登壇者は、ドイツのマックス・プランク電子図書館のトップのRalf Schimmer博士、JUSTICE運営委員会 委員長の市古みどり氏(慶應義塾大学 三田メディアセンター 事務長)と私。JUSTICEとは大学図書館コンソーシアム連合(Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources : JUSTICE)のことであり、国公私立大学図書館協力委員会と国立情報学研究所(NII)が設置する「大学図書館とNIIとの連携・協力推進会議」の下に置かれた委員会で、実は電子ジャーナル出版社との価格交渉などに当たっている。パネル討論のモデレータは国立情報学研究所 オープンサイエンス基盤研究センターの尾城 孝一氏。

今回はあっという間に参加登録者が予定をオーバーし、動画配信も行ったため、本学の附属図書館の方々もパブリックビューとして聴講された。画像は附属図書館の課長さんよりご供与(実は、私のスカーフはOA推進のシンボルカラーであるオレンジだったのです♫)
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詳しくは報告書記事も出ると思うが、速報としてツイッターのまとめを作成しておいたのでご参照あれ。個別にはハッシュタグ「#sparcjp201803」でも挙がるだろう。


私のプレゼン「日本におけるOAの推進を阻むもの:一(いち)生命科学者より」で反応が大きかったスライドを挙げておく。

まず、東北大学医学部に関係するTohoku Journal of Experimental Medicineという総合医学雑誌のインパクトファクター(IF)が、J-STAGEの支援によりOA化してから急に上がったという事実。1920年創立で、第二次世界大戦も東日本大震災も乗り越えて来た月間雑誌。現在は、投稿数の8割は国外から。きちんと査読され、採択率17%となっている。
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もう一つ、反応が大きかったのは「IF vs APC相関図」。こちらは友人がFacebookに上げていたものを拝借させて頂いた。IFが飛び抜けているもの(Nature本体、姉妹誌など)は除いてある。若干、現在のIF値と異なる気がするので、本学でもっともメジャーな雑誌など中心に再度、資料を作成してみたいが、およその目安にはなっている。後の質問で図書館関係の方からは「そんなにIFが気になりますか?」と訊かれたが、たぶん、多くの生命科学系の研究者はIFというスケールに絡み取られているのではないかと思う(どのくらいの値のところで勝負しているかなどもあり……溜息)。
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おそらく、会場のほとんどは図書館関係、雑誌関係、一部メディアの方というような構成だったので、現場の生命科学系研究者(ちなみに、物理系などとはまた異なる)の意見は新鮮だったようだ。

一方で、研究者の多くは、日本でもっとも出版されているOA誌がScientific Reportsであることや、そのためにどのくらいの費用が投じられているか(しかも上記のように購読料+APCという形で二重に)について考えたことが無い。自分の研究費をどのくらい有効活用して業績を挙げるかに苦慮しているという方々がもっともメジャーな層であろう。

ドイツではOA化を推進しており、順次、出版社ごとに雑誌の購読を止めてAPCのみ支払うという方向を目指している。我が国において、大学の予算が削られ、論文数も減少することへの対抗策として、高い電子ジャーナル購読料をスパッと止めて、その浮いた分を論文を投稿する研究者に補填するというような仕組みが考えられても良いのではないかと思う。(いつも好評なイラストは友人の池田さんに描いて頂いたもの)
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by osumi1128 | 2018-11-10 07:51 | 科学技術政策 | Comments(0)

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