PLOSという営み

昨日のエントリーの続き。

自分のプレゼンの中でPublic Library of Science(PLOS)というオープンアクセス(OA)雑誌の草分け的存在である雑誌について取り上げたのは、創設当初からこの非営利出版社の考え方に賛同するからである。(画像は、先日のSfNでブース出展していたPLOSのパンフレットを撮影したもの。デザインも素敵)
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さまざまな生命科学分野をカバーしているが、もっとも古いのがPLOS Biologyであったかと思う。2003年に創刊され、その後、2006年に軽めのバージョンのPLOS ONEというジャーナルができて人気となったところに他の商業誌が目をつけた。過日のセミナーで、マックス・プランクのディジタル図書館長のシマーさんも挙げていたが、世界的にみてもOAジャーナルで論文数が多いのは現在、PONEとNature系列のScientific Reportsという雑誌である。

Web of Scienceという分析サイトのデータをもとにした2016年の状況では、PONEが22,091報、Sci Repが20,546報となっている。日本ではこれが逆転しており、東北大学の実績では、Sci Repが1,424論文で、かたやPONEが1,124論文となっている。

つまり、国民の税金をもとにした研究費のかなりの額が他国の私企業に流れている訳だ。なので、私としては頑なに「Sci Repに出すよりはPONEに」という路線を守っている。

上記のパンフレットのように、PLOSは最近、BioRxiv.org(Preprint Server for Biology)との連携を進めようとしている。最終的に査読を受けて掲載される前の原稿の段階でオープンにするということもオープンサイエンスの推進の一つであるが、これは良い営みと思うので推進されることが望ましい。

一方、過日のプレゼンでは話さなかったが常々思っていることとして、日本の生命科学系のさまざまな学会誌を束ねて強くすることができないかと考える。それぞれ学会の歴史があり、それとともに歩んできたオフィシャル・ジャーナルがある。OA化されているものもあり、出版社(たいていはWeily、Springer、Elsevier)からのロイヤリティが学会収入になったりもするので、それを手放すことが難しいと考える研究者が多いのだが、IF値が2〜3程度のものが乱立していても意味がない。

中国で創刊されたCell Researchという雑誌は、2016年のIFが15.606となっている。中国系の研究者はお互いの論文を積極的に引用し合うように、という指導を受けていると聞くが、急増する研究者数もあいまって、このIF値はさらに上がるかもしれない。

この際、日本で「ConBio J(仮称)」というような雑誌を新たに作ってはどうか? まずは、それぞれの学会誌がその傘下として独立性を保ちながら加わるような仕組みを文科省系のJ-STAGEあたりと協力して進められると良いのではと思う。



by osumi1128 | 2018-11-11 09:33 | 科学技術政策

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