廃炉人材を育てる

昨日、初めて福島第一原発(F1)を訪れた。

東北大学は東日本大震災直後の2011年4月に震災復興新生研究機構を立ち上げ、8つのプロジェクトと100+の復興アクションを展開している。そのうちの1つに「事故炉廃止措置・環境修復プロジェクト」があり、(1)原子炉廃止措置基盤研究センター、(2)放射性物質によって汚染された生活環境の復旧技術の開発、(3)被災動物の包括的線量評価事業を3つの柱で展開している。現在、センターの事業として「廃止措置のための格納容器・建屋等信頼性維持と廃棄物処理・処分に関する基盤研究及び中核人材育成プログラム」という人材育成にも力を入れている。

今回、海外からのゲスト視察対応として、東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻の渡邉 豊教授(原子炉廃止措置基盤研究センターも兼任)と、原子炉廃措置基盤研究センター支援室長 兼 廃止措置リスク管理技術研究部門長でもある青木孝行特任教授にご同行頂き、東京電力HD(株)福島第一廃炉推進カンパニー プロジェクト計画部 部長代理である石川真澄様、同廃炉コミュニケーションセンター 視察コミュニケーショングループ課長の中村里志様他にご対応頂いた。
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ちょうど本日からオープンするという東北電力廃炉資料館(画像)で簡単な説明を受けた。元は原発PR館として造られた建物をリニューアルし、福島第1原発事故の経過と廃炉作業の進行具合を一般向けに紹介するもの。1号機の内部に入った様子が見渡せるような3面大型モニタの部屋などを通らせて頂いた。


iPhone含め、身分証明書以外の荷物はこちらに残し、マイクロバスで福島第一廃炉推進カンパニーの本館へ。現在、1000名ほどの社員がいる。吹き抜けの現代的な建物の1階ロビーには多数の丸テーブルと椅子が置かれ、多数の会社内外の方々が打ち合わせを行っていて活気があった。

ここで、厳密に身分証明書と予め提出してある見学者名簿を照らし合わせてから、IDカードと線量計を受け取る。女性はビブスを着用して、線量計がお腹に近い位置になるような念の入れよう。今回の視察はすべてマイクロバスの中からであり、防護服などの着用は必要なかった。

燃料取り出し作業が粛々と行われている1号機から3号機、すでに取り出された4号機のかなり近くから様子を眺めることができた。約1時間の見学で累積線量は0.01ミリシーベルト(10マイクロシーベルト)。まぁ、歯医者に行って口腔レントゲン撮影を1回行うくらいの線量だ。日本から米国東海岸まで飛べば、その10倍くらいの宇宙線を浴びる。

巨大なF1の敷地内で、フランスの会社の自動走行システムの実証実験が行われているのも意外な事実。隔離されつつ人も車も適度に動いているというのがちょうど良いらしい。

見学後、本館に戻って廃炉推進カンパニーに務める本学工学研究科修士卒の2名とも話をする機会があった。一人は機械系出身で、廃炉作業に使われる機械の選定や工程見積もりなどの仕事をしている。もう一人は取り出された汚染物質の適切な保管のための材料開発などに携わるという。

どちらの若者も生き生きとしていて、曰く「上司も経験が無いことにチャレンジしているので、自分で工夫できるところが多い」ことがやりがいに繋がっているようだ。「廃炉は自分がこの会社を勤め上げる頃までに終わっていないかもしれないが、きちんと進めて行きたい」と語っていた。

2011年3月11日に東日本大震災が起きたこと、そしてF1ではいくつもの不幸が重なってしまったことは変えようのない事実。地震国である日本はクリーンなエネルギーを得られる原発に関しての「万が一」のリスクも大きい。フランスはちょうど、マクロン大統領が2035年までに原発14基を廃炉にすると宣言したところ(実際には、2025年までに原発依存度を50%にするという計画を10年先送りにしたということ)。だが、人間が原子エネルギーに頼るにせよ、頼らない決断をするにせよ、作ってしまった原子炉をいつか廃炉にするということは絶対に必要なプロセスである。そして、それに関わる人材を排出し、活躍してもらうには、産学官民の協働が必要だ。

F1という現場では現在、他ではできない試みが続けられている。ここは新たな始まりの地なのだと思った。

なお、冒頭で紹介した東北大学の廃炉の人材育成プログラムは残念ながら、今年度で終了とのこと。国の人材育成事業がどれも短期(5年程度)であることは、かねがね困ったものだと感じている。このプログラムの一環として、日本原子力研究開発機構(JAEA)の福島リサーチカンファレンスなども協力している他、2016年に第1回目の次世代イニシアティブ廃炉技術カンファレンス(NDEC-1)を行い、合宿形式で若手の研究発表や表彰などを行う試みを開始した。諸外国(とくにフランス)から著名な廃炉研究者も参加し、若手は大いに鼓舞されたという。

資源の無い日本では人材こそが大事な資源であり、人材育成はもっとも平和な世界貢献である。

by osumi1128 | 2018-11-30 07:42 | 311震災

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