上野千鶴子先生の東大入学式祝辞にアジテートされて:その2

先週上げた「上野千鶴子先生の東大入学式祝辞にアジテートされて」がBLOGOSさん含め、思いの外、読まれたようで、追記しておきたい。

書かれた作品はそれ自体に<命>を吹き込まれており、作者の意図など深読みすること自体がまた<創造的な営み>なのだと思うが、拙ブログで筆者の意図するのは、「上野千鶴子先生の祝辞」に触発されて得た思考を記録することである。

Wikipedia情報によれば、上野先生はちょうど干支が一回り違うようだ。京都大学文学部哲学科社会学専攻を卒業され、博士課程に進学したのち、おそらく単位取得のちに満期退学。同大学の社会学専攻研修員を務めた後、平安女子短期大学(現平安女学院大学短期大学部)の専任講師に就かれ、京都精華大学人文学部助教授を経て、1993年に東京大学文学部の助教授として迎えられた。1995年に教授に昇進されている。

東大の文系教授で存じ上げている大沢真理先生は、上野先生よりは5歳年下。東京大学経済学部卒業で1998年に母校の教授になられたが、現在でも、東大出身の女性が教授として残っている例はとても少ない。

筆者は現在、東北大学を軸足に女性をエンカレッジする活動を続けているが、その経緯は、2001年(平成13年)に男女共同参画委員会が設置されたことによる。立ち上げにご尽力されたのは、法学研究科教授(現名誉教授)の辻村みよ子先生(現在は明治大学)であった。

辻村先生はちょうど10歳年上。あるとき、委員会がらみでお目にかかった折に、「私のボスは、大学院進学の面接のときに、<女性は男性の2倍の業績があって同等とみなされるから、そのつもりで覚悟しなさい>って言ったのですよ……」という昔話を披露した。すると、辻村先生は、「あら、私のときは5倍って言われたわ。私より10歳上の先生は10倍だったはず……」

今では、politically incorrectな、そんなことを言われる男性教授はいないと思うが、当時、20代の素朴な私は「そうか、2倍は物理的に無理だろうから、1.5倍くらいを目指そう」と心に決めた。だが、振り返ってみれば、当時でさえ本当はそれは不当なことであったのだ。

このマインドセットは、昨年、問題となった医学部入試における女性差別問題が、なぜ続いてきたのかと重なるところがある。

「女性は入試では良い点数を取るが、医者には向いていない」
「せっかく育てても、結婚、出産、育児、介護で離職する」
「女医が多くなると現場が疲弊する」

このような理由により、入り口で女性の数を制限することが正当であるとみなされてきた。

「医者に向いていない」というのは、まったくナンセンスであり、OECDの2017年のデータによれば、ラトビア、エストニア、リトアニア、スロベニア等では60-75%の医師が女性だ。ケア・テイカーとして女性の方がそのような資質を持った人材が多いかもしれないし、患者の半数が女性であるのだから、女性医師の方が有り難いという側面もある。

「女性の方が離職率が高い」のは、本来であれば、医師の就業環境を改善することにより解決すべきことである。例えば、初等中等教育に携わる教員の場合は「産休補助教員(産休代替教員)」という制度がある。「女子教職員の出産に際しての補助教職員の確保に関する法律」という法律が昭和30年(1955年)に制定されたことにより、とくに初等教育における女性教員比率は、現在6割くらいに女性が増加することとなっている。(このことは逆に、我が国の理系教育、とくに女子対象において問題がありうると感じているが、ここでは論じない。)

そのような、本来、環境整備を行うべきところが為されていないことにより、「女医が多くなると現場が疲弊する」と感じられているとすれば残念なことである。ともあれ、我々の年代では医学系で女子学生は1割くらいの時代であり、学生としてそれがおかしいと感じてはいなかった。単に世界を知らなかっただけなのだが。

現在、日本の医師の女性の割合は21%程度。若い年代の女性医師比率のG7国別経時変化を示したグラフがあるので貼っておく。どの国も医師の女性比率は増加しており、米国と日本を除く5カ国すべてで、女性医師は5割を超えている。日本が2010年時から伸びていない様子が伺える。
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(ここに掲げたグラフは、「世界各国比較|医師の男女比ランキング・年代・診療科別」というサイト(2018.4.30更新)から借用しており、OECDデータの二次利用となっています)

日本には女性の医学部合格者、そして結果として国家試験合格者に「35%の壁」があるようで、入試時点で何らかの手段によってこのラインが死守されているように思われる。例えば、入試の点数を操作しなくても、入試に数学を課すかどうか、理系科目の問題の難易度を上げるかどうかで、応募者の女性比率をコントロールすることが可能だ。(友人である数学科のK先生は「医師にも数学は必須」と言われると思うし、統計的思考は誰にとっても騙されないために必要なリテラシーであるとも筆者も考えるが、医学部入試では数学の出題が無い大学において、女子学生比率が高いことはよく知られている)

上野先生の祝辞の冒頭で、「女子学生の(医学部への)入りにくさ」について、「女子学生の合格率に対する男子学生の合格率は平均1.2倍」という数字を挙げておられるが、問題は合格者における格差だけではないことを指摘しておきたい。

上野先生が祝辞の中でもう一つ挙げている数字が、東大の入学者における女性の割合である。

「東京大学入学者の女性比率は長期にわたって「2割の壁」を越えません。今年度に至っては18.1%と前年度を下回りました。」

これは我が国の将来にわたって非常に大きな問題があると思われる。

日本の将来を支える大事な高等教育機関のトップ校が、いまだに非常に男性優位であることもそうだが、進学してくる男子生徒のマジョリティが「男子校」の出身者で占められているということに筆者は憂える。2019年度の上位校から並べると、開成(187名)、筑駒(113名)、麻布(100名)、聖光学院(93名)、灘高(73名)と続く。男子校は男子校としての存在意義はあるだろうが、思春期に男女がともに共存する環境に晒されることが少ない男性が東大の学生のマジョリティであることは、長きにわたっての問題がありうる。(その一端については、上野先生の問題提議の中で、部活のこととして取り上げられていたが、筆者は彼らが社会人になってからの影響について憂慮するものである。)

ちなみに、東大合格者の貴重な18.1%(567名)の女子のうち、なんと1割以上(66名)が桜蔭高等学校であるということも、ダイバーシティの観点からは非常に問題であると思う。繰り返すが、女子校は女子校として教育上、重要な面がある(例えば、理数系の理解の仕方が男子と異なるので、異なる教え方の方が効果があるなど)。しかしながら、東大卒の女子が、東京の私立の女子高に偏ることは宜しくないと筆者は考える。

もう一つちなみに、東北大学では今年の学部入試では2446名の合格者のうち674名(27.6%)が女性。これは喜ばしいことに、昨年の26.4%よりも増加し、過去最高となった。

過日、朝日新聞の科学面に高橋真理子論説委員の署名記事が載っていた(2019.4.4)。カナダの政府主席科学顧問という、首相にもっとも近い、科学行政のご意見番のモナ・ネメール博士という薬理学者へのインタビューをもとに書かれており、「女性の比率が30%になるまでがもっとも難しい」という言葉で締めくくられていた。ネメール博士が大学院生だった35年前、100名中女性は5人。「4階建て校舎の各階は男性用トイレだけで、女性は地下の共用トイレしか使えなかった。……、当時、教授40人中女性はゼロだった。今は学生の半数、教授の2割程度が女性です。」

詳しくはぜひ、朝日新聞DIGITALの記事を読んでほしい。

3割の壁は、学生比率の問題というよりも、意思決定に関わる人々の中での割合が重要だと思う。カナダではトルドー首相が男女半々の内閣を作った。遅々として進まない状況を打破するには、トップダウンに進めることも大事だろう。

Commented at 2019-04-21 13:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by osumi1128 | 2019-04-20 10:41 | ジェンダー | Comments(1)

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