上皇様の攘夷から今上天皇の即位、令和初の国賓として米国大統領の来日、そして今上天皇皇后両陛下、秋篠宮皇嗣殿下妃殿下等の地方ご訪問と、何かと皇室の話題に事欠かない日が続いています。
米国大統領と令夫人をお迎えしての宮中晩餐会が、今上天皇と大統領それぞれのスピーチまでTV放映されたというのは、「開かれた皇室」をかなり意識してのことだったのではと拝察します。それに先立つ会見も、お迎えにあたって皇族方が通訳なしで対応されている様子がYouTubeにも残っており(映像提供は宮内庁)、いろいろな意味で時代が動いたことを感じさせます。(もちろん、未解決の社会問題が多々あることは折り込み済みではありますが……)
おそらく、天皇陛下も皇嗣殿下もオックスフォード大学に留学されたこともあり、それ以前からの英国ロイヤル・ファミリーとの家族レベルの交流も含め、「開かれた皇室」の在り方について、英国王室の現代社会への対応を大いに参考にされたのではないかと拝察します。
ちょうど令和幕開けの連休中に見た皇室関連のTV報道の中でも、天皇陛下のご学友が、1983年から1985年の間の英国留学により陛下が大きな影響を受けたというエピソードが語られていました。他に下記のようなエッセイが参考になるでしょう。
天皇陛下は学習院大学で水運史等のご研究を続けておられ、その成果を折々に講演されてきました。その講演記録が
『水運史から世界の水へ』(NHK出版)というタイトルで、即位前の4月5日、徳仁親王のお名前で上梓されました。
ここで少し話を脱線させますが、この装丁に使われているのが筆者も大好きな吉田博の「光る海」という版画(下記Amazonからの表紙画像参照)。吉田博は他にも瀬戸内海に浮かぶ船の風景を題材にした「帆船」というシリーズなどもありますが、この版画はMOA美術館所蔵のものを使われたようです。上記書籍の表紙と同じ「光る海」の版画が実は故ダイアナ妃の執務室に飾られていたというエピソードがあるのです。
ちょうど天皇陛下がご留学から帰国された翌年の1986年に、故ダイアナ妃はチャールズ英皇太子とともに来日され、当時、浩宮様として修学院離宮をご案内した写真などが残されています。
さて、陛下は2003年より世界水フォーラムの名誉総裁も務められており、また、「水」という切り口が社会の多様な問題に繋がることを説いておられます。以下、少しだけ引用します。
水問題は、あたかも水がどこにでも流れていくように、世界の紛争、貧困、環境、農業、エネルギー、教育、ジェンダーなどさまざまな分野に縦横無尽に関わってきます。(はじめにより)
本書の第7章は「水災害とその歴史」として、2012年に学習院女子大学で行われた講演をもとにして日本の津波被害について述べられています。2011年に起きた東日本大震災のビフォー・アフターの画像も多数、配されており、Wikipediaによれば2019年3月8日時点で、死者は1万5,895人、重軽傷者は6,157人、警察に届出があった行方不明者は2,533人という被害の大きさに、被災地にもっとも近い総合大学の一員として、改めて心が痛みます。
さらに、古文書等に残された地震や津波の被害についての記載を紐解いた資料研究の事例が多数、紹介されていました。この章の最後の文を載せておきましょう。
被災地の復興には時間がかかると思います。私も雅子とともに、被災された方々と被災地にこれからも心を寄せ、その復興を見守っていきたいと思っております。
天皇陛下は、これからの皇室の在り方として、このような文章として発信していくということも考えておられるのかもしれません。これまでより、皇族方はそれぞれのご専門分野があり、論文の執筆などもされていますが、このような側面は、英国王室よりも素晴らしいことだと心より敬服しています。
過日、秋篠宮皇嗣殿下がご訪問された東北大学災害科学国際研究所は、まさに文理融合型の災害科学を推進しています。いつかぜひ、陛下もお成りがあることを祈っています。