映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を観て考える大学図書館の未来

ニューヨーク公共図書館 New York Public Library (NYPL)といえば、古くは『ティファニーで朝食を』の舞台にもなったし、TVドラマのSATCで、主人公のキャリーが本を返しに来て、結婚式を挙げるなら偉人の蔵書が眠るここ、と決めたのもこの図書館の美しい階段。いつか行こう、ニューヨークだし、きっといけるはず……と思いつつタイミングを逃してしまっているが、やはり行かなければならない、と映画を観て決意を新たにした。
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映画は東京では岩波ホールが立ち見になるほど満席であったというが、仙台では一昨日の6月28日より「フォーラム仙台」という小さなシアターで公開中。ドキュメンタリー映画の監督として著名なフレデリック・ワイズマンが、世界最大級の図書館の日常を淡々とカメラで追った3時間20分(途中に10分休憩あり)。

有名な本館の大理石のホールや、3階のリーディングルームといった空間の素晴らしさだけでなく、様々な立場でNYPLに関わる人々のリアルが綴られる。リチャード・ドーキンスなどのパブリックトークの様子、幹部の会議や委員会、電話応対する司書、バックヤードで返却図書の仕分けなどに関わる人々、聴衆、来訪者、ボランティア、いくつかの連携館や分館でのシーンもあった。

一言で言えば、現代の公共図書館の業務は多岐にわたる、それを支える人々がいる、ということだろう。

実は予備知識として、すでに岩波新書から2003年に発行されている『未来の図書館―ニューヨークからの報告―』(菅谷明子著)を読んでおり、2010年の当時、感動しまくって、4回に分けて感想・エッセイを拙ブログに書いたくらいなので(末尾参照)、NYPLについてそれなりに知ってはいたものの、映像の力のパワフルさに圧倒された。また、NYPLがさらに進化しているとも感じた。
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公共図書館とはいえ、財源はニューヨーク市だけでなく、民間からの寄付なども多い。ちなみに、実現しなかったキャリーの結婚式だが、5時間300万円で借りられるらしい(ネット情報)。実際、結構な頻度でファッションショーなどは行われていると聞く。このような収入も大事な財源だ。

年間予算が340億円、職員数3,000超え、年間来館者数1,700万人というNYPLの規模(Wikipediaより)とは比べようもないが、不肖ながら昨年4月より、ご縁があって東北大学附属図書館長を務めており、大学図書館としての機能について職員とともに日々、考えるようになった。NYPLとその分館では、子どもに勉強を教えたり、就職支援のセミナーを行ったり、自宅にネット環境が無い市民にWiFi端末を貸し出したり、視覚障害者に点字の読み方、打ち方を教えたり、聴覚障害者のために劇場の手話通訳者を招いたセミナーを開催したり、コンサートを開いたり……など、多くはボランティアとの連携とはいえ、「え、ここまで図書館がするの?」という多様な活動に目眩がしそうなくらいだった。

未来を築いていく学生や教職員のために大学図書館では何ができるだろう? より愛される大学図書館になるためにはどうしたらよいだろう? リアルにもバーチャルにも、そこにあることが空気のように当たり前な図書館が、もっと意識的にその存在をリスペクトしてもらえるには、種々の智慧と連携が必須であろう。

原題は「Ex Libris: The New York Public Library」となっていて、「Ex Libris」とは「蔵書票」、原意は「誰それの蔵書から」というラテン語で、活版印刷による大量印刷が始まったとはいえ、まだまだ書物が高価だった時代に所有権を示すために、本の見返し部分に貼られていた小さな紙片。NYPL自体が市民のものであるというような意味が込められているのだろう。

拙ブログ:

関連リンク:
国立大学図書館協会オープンサイエンス委員会:オープンサイエンスに向けて国立大学図書館が担う具体的役割(PDF、2019.4.12)

by osumi1128 | 2019-06-30 17:14

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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