第37回日本内分泌代謝学サマーセミナーに参加しました

長年の友人というか、いわば同志でもある束村博子先生(名古屋大学副理事、大学院生命農学研究科教授)がオーガナイズされた第37回日本内分泌代謝学サマーセミナー(日本内分泌学会主催)にお邪魔しました。会場は2006年に行われた第57回全国植樹祭の折に、当時の天皇皇后両陛下がお泊りになった下呂温泉の名旅館、水明館。束村先生は女性として初めての本サマーセミナー会長とのことでした。
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2日目の午後、「性と成熟の比較内分泌学」というシンポジウムの枠で、新ネタの「性比決定」について20分ほどのトークをしてきました(いずれまた、しっかりとまとめてブログにも書きましょう)。シンポジウムは私の後に、大久保範聡先生(東京大学大学院農学研究科准教授)が「魚類の性行動パターンの性差形成と性的可逆性」について、さらに深見真紀先生(国立成育医療研究センター部長)が「ヒトの性成熟の分子基盤」について話されました。魚類には性転換するものがいますが、そのエピジェネティックなメカニズムは興味深いものでした。また、ヒトの性成熟の賛助差も、改めて解かれていない問題が残されている分野だと思いました。座長の鈴木真理先生(政策大学院大学)、井上直子先生(名大、生命農)、コメンテーターの上田陽一先生(産業医科大学)、有難うございました。

その後、長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学学長)による特別講演「ヒトはどのように進化してきたのか? 情動、認知バイアス、そしてAI」に聞き入りました。ヒトとヒト以外の霊長類との差、進化の過程で重要であったであろうイベントとしての道具の使用、火の使用、腸は1/3に短くなり、脳は3倍に大きくなり、共同して行う狩猟採集生活(毎日、何kmも歩く)は、つい1万年前くらいまで世界中で普通のこと。社会的認知作用(言語・社会性)の進化と物理的認知機能(道具使用)の進化。情動の重要性。「科学は最後に現れた物語」というフレーズを反芻しています。(画像はお揃いのような白いジャケットの長谷川先生と束村先生のツーショット)
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長谷川先生のご意見は、毎日新聞の「時代の風」のオピニオンコラムや、朝日新聞の書評欄(webでは「好書好日」というサイトにまとめられています)などで読めますが、ご講演の内容は、以下のような講義動画サイト(有料)でも視ることができそうです。

それにしても、ヒトはなぜ、「出アフリカ」しようとしたのでしょう? 人口密度が高すぎた訳でもないのに……。少なくとも大きなトレンドとしては、現生人類より前と、さらに7万年前くらいに起きたことがわかっています。長谷川先生は、ヒトの持つ「好奇心」が大きな原動力であったと考えておられます。好奇心は種々の動物でも若いときには大きく、大人になるにつれて行動はルーチン化していきますが、ヒトでは離乳は早いのに対し(これは授乳する母親以外の個体が子育てに参加できるメリットにつながった)、思春期までが長く、さらに好奇心が長く続くという特徴があると長谷川先生は考えておられます。この違いが脳のどこに隠されているのか、大いに興味をそそられます。

懇親会のときに長谷川先生と座席がお隣だったので、「集団の中に必ず、ADHD的な、リスクより興味に突き動かされるようなタイプのヒトがいたのでは?」という考えを伝えたところ、「そうね、好奇心に加えて、やっぱりヒトの持久力が他の動物より優れていたのと、あの遠くの土地に何かもっと良いものがあるはず、と信じる心があったからかしら……」。ヒトの持つ「想像力」も出アフリカに関わったのでしょう。

セッションは、基調講演の後、学会に多大な貢献をされた国立循環器病研究センター名誉所長・宮崎医科大学名誉教授の松尾壽之先生のお名前を冠した松尾賞の授賞式と記念講演。今年は九州大学教授の小川佳宏先生が受賞されました。おめでとうございます。ますますのご活躍を!

その後、昨年2月に亡くなられた前多敬一郎先生(東京大学農学)の追悼も込めた、「エンカレッジセミナー」において束村先生ご自身がお話されました。前多先生は束村先生のご主人でした。座長をされた伊藤 裕先生(慶應大学)のご紹介のお言葉によれば「不即不離」の間柄とのこと。最愛のご家族を急に亡くされても、その遺志を継いで後進の育成に当たられる束村先生、若い方々に向けてたくさんの応援メッセージを話されました(多くは昨年、中日新聞の連載コラムに書かれた内容とのこと)。お時間が十分でなかったことが残念です。いくつか画像として載せておきましょう。
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参考:岡 良隆先生による追悼文(PDF、比較内分泌、2018.5)

そう、束村先生は、後に続く若い方々、とくに女性の研究者をエンカレッジしたく、サマーセミナーの構成にあたって、意図的にそういう人選をされたのですが、長谷川先生も私も束村先生をエンカレッジしたくて講演を引き受けたのでした。泣きたいときには涙を流してもよし。どうか無理はされずにいて下さい。

by osumi1128 | 2019-07-06 11:57 | ロールモデル

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