本日、男女共同参画に関する1時間半の講演を行うために室蘭工業大学に出張しました。北海道新幹線とスーパー北斗を乗り継いで東室蘭まで。なんとiPhoneを忘れてしまったため、WiFiが繋がらないスーパー北斗の中では仕事ができず……。神様が与えてくれた時間だと思って、ご恵贈頂いてから読めずに持ち歩いていた加藤秀弘先生の
『クジラ博士のフィールド戦記 』(光文社新書)を読了。
加藤先生は北海道大学のご出身で、ご専門は題名どおり鯨類の生活史変動や個体群調節について。199年度の科学技術庁長官賞(現在の文部科学大臣賞)を受賞されておられます。父とは旧水産庁遠洋水産研究所や、日本鯨類研究所(日鯨研)で重なっていて、過日、葬儀の折にも来て頂きました。また、IWC(時計ではなくって、国際捕鯨委員会です)の方に追悼文を書いて頂いたり、顧問をされている日鯨研の方々とともに12月23日の「偲ぶ会」のご準備もして頂いています。有り難いことです。
本書は12年ほど前に構想されたとのことですが、昨年3月に東京海洋大学(元の東京水産大学。
さかなクンが名誉博士の称号をもらった大学ですね)を退職されて、ようやくご執筆のスピードが上がって上梓できることになったようです。
クジラの研究をするに至る過程のことや、クロミンククジラとシロナガスクジラの戦い、シロナガスクジラの全身骨格がノルウェーのトロムソ大学博物館からはるばる海を越え「しものせき水族館」に展示されるようになった経緯、マッコウクジラの不思議な生態、そして捕鯨を巡る国際情勢について、長く現場におられた方の視点から語られています。フィールドワークの分野にはロマンがありますね……。
シロナガスクジラの全身骨格受け入れに関しては、1999年にトロムソ博物館のニールセン館長と、当時、日鯨研の理事長であった父、大隅清治との間で借用調印式が行われたとのこと。本書を読むまで知りませんでした。とはいえ、旧鯨類研究所の大村所長から、IWC脱退直前のIWC日本政府代表を務められた森下丈二氏まで、父から聞いたことのある方々のお名前が随所に上がって懐かしく思いました。
捕鯨に関するご意見は種々の立場から、いろいろあろうかと思いますが、加藤先生は科学者の視点より、「シロナガスクジラの個体数を回復させるのには、ミンククジラを間引いた方が良い」と述べられています(本書の帯も参照)。商業捕鯨が再開することになった今、タイムリーな本と思います。新書には珍しく巻末に「解説」が寄せられているのですが、『鯨の王』という本を書かれた藤崎慎吾氏と加藤先生とのやりとりも、なかなか興味深かったです。