夏目漱石は明治期の文豪でしたから、当然ながらいろいろな出版社さんに関わっています。
過日、丸善雄松堂さんに関わるエピソードをご紹介しましたが、漱石と岩波書店さんとのつながりも興味深いものがあります。
漱石の著した書籍を集めた「全集」は各社から色々出版されていますが、岩波書店からは
『定本 漱石全集』が出版されています。漱石研究の基本資料ですね。『吾輩は猫である』が第一巻。また、漱石自筆の原稿885枚を複製した
『漱石自筆原稿「心」』も刊行されています。
編集者の方から教えて頂いたのですが、社史『岩波書店 百年』によれば、古書店として始まった岩波書店の創業者、岩波茂雄氏が漱石に頼んで、朝日新聞に連載された小説『こゝろ』を自費出版という形で出版させてもらったとのこと。これが出版社としての第一歩を踏み出すきっかけとなったそうです。それだけ思い入れがあるということですね。
また、開業当初(1918年)の看板の「岩波書店」の字は、夏目漱石の筆によるものとのことです。(画像は以下の公開ページより拝借しています)
ちなみに、岩波書店さんのロゴマークはミレーの「種をまく人」に基づいたものです。知の種を蒔くという社風を感じます。
日経新聞に連載中の『ミチクサ先生』の今朝の回では、東京図書館(その後、帝国図書館を経て現在の国立国会図書館に至る)を子規とともに訪れた漱石が、「本の御殿」と驚く子規に、次のような言葉をかけるシーンが出てきます。
「……新しいものであれ、古い本であれ、紙の独特の匂いには、初めて立った岸辺から漂う汐(しお)風に似た香りがあるように思います」
「……一頁(ページ)一頁をめくるのは舟の櫓(ろ)を漕ぐようなもので、疲れたり、行き先が見えなくなる時もあるが、やがて今まで見たことのないような素晴らしい眺めが、世界があらわれると……」
拙ブログでもお伝えしていますが、東北大学附属図書館は、漱石の自筆資料や書込みのある書籍など約3000点を備える「漱石文庫」を収蔵しており、これらをデジタル資料として後世に残すために、現在
クラウドファンディングプロジェクトを展開しています。
デジタル資料には本の「匂い」そのものは無いかもしれませんが、自筆資料や書籍への、書込みは、きっとその匂いを思い出し、漱石の気持ちを想像する助けになると思います。あと1週間余、ぜひ一人でも多くの方にご支援をお願いいたします。
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ぜひ、以下の詳しい情報をお読み頂ければ幸いです。