【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG

想定内のことであったが、ついに東京オリンピックの開催は延期され、直後に小池都知事は都民に対して外出自粛の要請を発した。1ヶ月前と国内外の状況は大きく異なっている。もはや感染者数の世界トップは米国で、イタリアも中国を抜いた。欧州の主だった国の感染者数も日に日に増加している。本日は東京で60人超え、千葉でも障害者福祉施設で、28日職員と入所者合わせて57人の感染者が報告されるなど、日本にも、いわば第二波(実は第三波?ー追って別記事を書きます)のような感染者数増加が著しい。

このような国別の感染者数、死亡者数を見て、国による差が著しいことについて、多くの人々がその理由を考えている。理由がわかれば、予防に繋がると期待されるからだ。

もちろん、誰でもすぐ考えつく文化的な差異としては、COVID-19蔓延以前からのマスク着用の習慣や社交的な挨拶の仕方などがあり、さらに医療インフラの多寡なとが挙げられる。そのような理由はもちろんありえる。

では、生物学的な観点からの違いは何だろう?

アジア系とヨーロッパ系の人々の間には、ゲノムレベル、遺伝子レベルでの違いは存在し、そのような研究も為されているものと思われる。また、国によって高齢化率が異なっており、高齢者の多い国ほど感染者や死亡者が多くなることはありえるだろう。

だが、3月26日付けで興味深い解析が「JSatoNote」というブログに掲載された。BCGの接種とCOVID-19の広がりの逆相関について紹介されている。「え? でもBCGの効果って、20歳くらいまででは???」

【追記】コロナ予防のための BCG 接種は適用外なのでできません
一般社団法人 日本結核・非結核性抗酸菌症学会からの見解
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と BCG ワクチンの接種に関して」(2020.4.6)


ブログ主の方のプロフィールは以下になっている。
The random notes of Jun Sato in English/Japanese.
I am a middle-aged Japanese male, brought up in Tokyo and moved to Brisbane at the end of 2017.
I started my career at the Tokyo office of a global management consulting firm and dived into a bank turnaround and launching its internet channel. I've started my own business and consulting in 2006 and have grown it to around $10M revenue.
I'm very open to new business/consulting inquiries to survive next year and next decade.
JSatoNote: If I were North American/West European/Australian, I will take BCG vaccination now against the novel coronavirus pandemic.(2020.3.26)(注:ブログなので折々に更新されます。最新の情報を確認頂くのが良いでしょう)
【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG_d0028322_16385882.png
まずこの世界地図の塗り絵を見ていただこう(図の出典は以下。筆者にとって感慨深い東日本大震災の起きた2011年の3月の論文)。

これは世界の国々で、結核予防のためのBCG接種をどのように行っているのかによって色分けされている。BCGは、結核を予防するワクチンの通称であり、ワクチン開発に関わったフランスのパスツール研究所の研究者の名前を冠した菌:Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)の頭文字をとったものであり、生後1歳までに接種される。

A(黄色): 現在、BCGの予防接種プログラムが実施されている国
B(紫): 以前は誰にでもBCG予防接種を推奨していたが、現在は推奨されていない国
中止した年は、スペイン1981年、ドイツ1998年、イギリス、フランス2005年~2007年など。
C(オレンジ):BCGワクチンの普遍的な接種プログラムが無い国

で、この国々を見ていて気づくことは………ざっくり結論を言うと、BCGの接種が行われている国では、COVID-19の広がり方が遅いという「相関性」があることについての指摘である(注:「相関関係」があるからといって「因果関係」があるかどうかはわからない)。

例えば、スペインとポルトガルは隣国同士だが、前者はBCGの接種プログラムが無く、後者は実施されている。拙記事執筆時点で、スペインの感染者数は65,719、ポルトガルは4,268である(数字はJohns Hopkins UniversityのCOVID-19マップに基づく)。【追記】スペインの人口は2018年で4666万人、ポルトガルは1029万人なので、unproportionalにスペインで感染者が多いことになる。

さらに興味深い比較としては、旧東ドイツと旧西ドイツが挙げられており、前者はソビエト型のBCGワクチンを接種し、後者は西ヨーロッパ型のBCGワクチンを1998年まで使用していた。患者の分布は圧倒的に旧西ドイツ側に多い。さらに、イラクとイランの違いについても言及されており、前者は日本型のBCGワクチンを使用し、後者は独自のワクチンを1947年から1984年まで使用していたという。前者の感染者数は458、後者は32,332となっている(3/28付)。【追記】人口比は旧東ドイツが1630万人、旧西ドイツが6680万人。

感染者数に対する死亡者数の割合も、日本、タイ、イラクでは低く、感染者数の増加が著しい欧州諸国においても、日本人の死亡例や重篤例は今のところ報じられていない。逆に、日本の感染者1,349人のうち、日本人は934名で、外国人が415名となっていることは、人口構成を鑑みて同じ日本国内でも外国人の方が感染しやすいことを示している。あるいは、日本でのCOVID-19により死亡した高齢者45人のうち44人は、1951年に開始されたBCGワクチン接種よりも前の世代(70歳以上)という事実もある。【追記】「日本での感染者 : 1,349名、うち日本国籍であると確認済の方 : 934名、国籍の確認が未済の方 : 415名」という標記の方が適切でした。

さらに詳しい説明は、元ブログを参照されたい。

では、仮にBCGワクチン接種に新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に対する感染や重症化の予防効果があるとしたら、そのメカニズムはどのようなものだろうか?

筆者は「ワクチンの効果は、せいぜいが20歳くらいまでではないのか?」と思っていたので、最初、この話は奇妙な偶然なのではないかと考えたが、どうも抗体価の問題ではなさそうなのだ。

種々の医学生命科学論文をブログで紹介されている西川伸一先生の3月26日付けのコラムによれば、BCGの接種により、免疫状態がエピジェネティックに変化するらしい。西川先生は、オランダのグループの論文を紹介している。


【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG_d0028322_17241042.jpg
この図は論文のGraphical Summaryとして挙げられているものだ(オープンアクセス万歳)。BCG接種によって、免疫系の細胞である「単球」にエピジェネティックな変化が生じ、遺伝子のスイッチの入り方が変わることによって、IL-1β等、各種の「サイトカイン」の分泌が盛んになる結果として、黄熱病の発症が抑えられるとされている(注:実際には、血液幹細胞におけるエピジェネティック変化でないと持続しない?)。筆者らはこの状態をtrained immunityと呼んでいる。

この研究では、BCG接種した健常人の血液を採取して調べているが、同じグループは2016年頃からこの方向で研究を行っており、trained immunityの成立には、細胞内のコレステロール代謝に重要なメバロン酸が関わるということも2018年のCell誌に報告している(注:これは、重症例と基礎疾患の問題を考えると興味深い点かもしれない)。

このような研究背景をもとに、すでにオランダではCOVID-19対策のためにBCG接種を開始した。主として医療従事者への接種を行う。

ドイツのマックス・プランク研究所も同様(報道としてはこちらが早い)。

オーストラリアでも開始された。

SARS-CoV2そのものに対するワクチン開発や、その他の治療薬の開発には年単位で時間がかかることから、これまで高い安全性が認められ汎用されてきたBCG接種に期待が集まっている。もちろん、他の生物学的な要因も絡んでいることは十分にありえる(注:別記事にするつもりであるが、SARSCoV2に弱毒性のものと強毒性のものの2種あって、国・地域によってどのウイルスが最初に侵入したのかなど)。We will see...


【追記(2020.3.29)】
他のブログ経由でもっとわかりやすい図にたどり着きました。


引用されていた図は以下のデータベース公開サイト(オープンデータ万歳)に掲載されています。

by Samantha Vanderslott, Bernadeta Dadonaite and Max Roser
Samantha Vanderslott, Bernadeta Dadonaite and Max Roser (2020) - "Vaccination". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/vaccination' [Online Resource]

こちらのページを下の方にたどっていただくと、国別1歳未満児のBCGワクチン接種率が出てきます。デフォルトは、記事が書かれた2015年時点のものですが、過去に遡ることもできるインタラクティブなインフォグラフィックスとなっています(注:ただしすべての年ですべての国のデータが揃っている訳ではありません)。

その公開されている世界地図がこちら(注:グレイの部分はno dataとなっていますので、接種率がゼロという訳ではありません)。
【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG_d0028322_09481113.png
もう一つ、挙げられていた図を元論文情報とともに再掲します(注:元論文はオープンアクセスではないのですが、筆者はリモートでVPN接続し、東北大学附属図書館経由でTubeluclosisという雑誌を閲覧することができます。元がオープンアクセスだったらなお良かったのに……)。

BCGワクチンの「株」にも差があって、ロシアや日本の使っているものの方が上記の効果が高いのではないか、という考察が為されます。

【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG_d0028322_09585685.jpg
繰り返しますが、現時点でBCG接種とCOVID-19との負の相関関係は、疫学データを元にした仮説です。現在、3カ国で開始されている結果がどうなるか、というヒトに対する効果とともに、本当にBCGの株による差異があるのかについては、ぜひ、まずモデル動物を用いた実験や、もし何か公開されているデータがあれば、それを用いた仮想比較などを行うことが良いと思います。

もし読者諸氏が他にも気づかれた情報があれば教えて下さい。

Twitterアカウントは以下です。
@sendaitribune


【さらに追記します(2020.3.29.16:46)】
本ブログを読まれた方から教えて頂いたのですが、東北大学老年内科に所属されていた大類孝先生(現東北医科薬科大学呼吸器内科教授)という方が、高齢者介護施設の、いわゆる”寝たきり老人”(一定の医学的基準に基づいて)に対して、BCG接種による肺炎予防効果について調べておられました。BCG接種後にツベルクリン反応が陽転になった方々では、陰性群に比して肺炎の発症率が有意に抑制されたとなっています。

ただし、これは上記で紹介した、長期にわたるサイトカイン応答エピジェネティクスによる(かもしれない)trained immunityそのものとは異なる観点です。しかしながら、BCGワクチン接種により高齢の方の肺炎劇症化を防ぐことができるのであれば、その原因がSARS-CoV2かどうかに関わらず朗報でしょう(注:ただし、ワクチン接種には副作用もありえます)。

<以下、科研費報告書より引用>
高齢者介護施設に入所中のADLの低下した155名の高齢者を対象とし、ツ反を施行し陽性群及び陰性群に分け、さらに陰性群を無作為にBCG接種群及び非接種群に割り付けをした。そして、BCG接種4週間後に再びツベルクリン反応を施行し、陽性者を陽転群とし、その後2年間にわたり各群における肺炎の発症率を前向きに追跡調査した。その結果、ツ反陰性群では44名中19名(42%)に、陽転群では41名中6名(15%)に、ツ反陽性群では67名中9名(13%)に新たな肺炎の発症が確認され、ツ反陽転群では陰性群に比して肺炎の発症率が有意に抑制された(p=0.03)。以上の結果より、BCG接種は細胞性免疫の低下した寝たきり高齢者において、肺炎発症の予防効果を有する事が明らかにされた。

科学研究費の報告書(2004年):

上記の内容が含まれるLancetのCorrespondence
(注:PDFがリンクされています。「Sir--」で始まる部分が該当するCorrespondenceです。Lancetは英国でもっとも権威ある臨床研究雑誌で、Correspondenceは「論文」ではありませんが、臨床研究の報告がEditorによって保証されて掲載されるものです)

上記の内容が含まれる英文総説:

この東北大学のグループ(当時は佐々木英忠教授が主宰)では、それ以前に、BCGではなく「23価 肺炎球菌多糖類ワクチン」を高齢者に投与して肺炎を予防したという研究もLetter to Editorとして米国の老年医学学会のオフィシャルジャーナルに2004年に報告されていました。
(注:ダウンロードされるPDFの10ページ目のところに該当の報告が記載されています)

BCGの結核予防作用以外についての報告もあり、東北大学にはかつて「抗酸菌研究所(現在の加齢医学研究所)」があったので、結核(抗酸菌の1種)の予防に用いられるBCGを使ってみようというのは、自然な発想だったのかもしれません。


【現状、日本で新型コロナウイルス対応のためにBCG接種ができる訳ではありません】(2020.4.4追記)
上記の「仮説」にもとづくドイツ、オランダ、オーストラリアでの対応は、これらの国々でBCG接種がルーチンになってはおらず、医療崩壊を防ぐ可能性の一つの手段として医療従事者に対して行うというものです。1歳までのBCG接種が義務付けられている我が国において、COVID-19に未感染の大人が予防のため、ましてや、罹患した人の治療のために接種することはありえません。

大人に対してどのように副反応が出るのかは、そもそも行っていないのでわかりませんが、仮に副反応が強く出た場合に、義務である子どもの場合と違って国が保証することはできません。

詳しくは厚労省サイト「結核とBCGワクチンに関するQ&A」を御覧ください。念の為。

ドイツ、オランダ、オーストラリアの結果がどのようになるのかについては、数ヶ月待つ必要があります。


【追記】教えて頂いたBCG接種の歴史について個人ブログ記事(掲載日不明だがおそらく2015年)


by osumi1128 | 2020-03-28 17:56 | 新型コロナウイルス

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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