サイモンの家事手伝い
2006年 03月 29日
ロンドンのホテルは部屋からアクセスできず、ロビーの無線LANを通じてプロバイダと時間契約をしたのですが、高いですね・・・
1時間で6ポンド(1500円くらい)、アメリカなら普通この値段で部屋から24時間高速ネットにつなげます。
しかも、今回2回トライしたのですが、登録システムが複雑なのと、運悪く繋がらない事態もあったりして、もうさんざんな目に遭いました。
イギリスに対する評価を下げていますね・・・
ここのエントリーはまだエジンバラのものになりますがご了承下さい。
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日本語で「家事手伝い」と言うと、未婚のお嬢さんの職業とみなされてしまうような「性別役割分担」はフェミニストの方たちが目くじらを立てるマターの一つだろう。
何度かこのブログに関連するエントリーをして、いろいろなコメントも頂いたが、私はまず「生物学的に女性と男性は異なる」というところに軸足を置く立場である。
ただし「異なる」ことは必ずしも「差別」を意味しないと思う。
そういえば、エジンバラ滞在中に面白い新聞記事を読んだ。
ヒトとチンパンジーのDNAを比べると約98%が相同である。
すなわち、DNAレベルでチンパンジーは98%ヒト的であり、線虫は70%、なんとバナナは(そんなものを比べるのは無茶苦茶なのだが)50%ヒトと同じとのこと(正確かどうか分かりません。ごめんなさい)。
その場合に、バナナよりも線虫が偉くて、それよりもチンパンジーが偉いと考えるのは、ヒト中心的な傲慢な思想だと私は思う。
話が逸れたが、エジンバラ滞在中、ヴェロニカのご主人のサイモンがどのくらい家事に参画しているかウォッチしてみた。
まず、朝ご飯の用意の一部はすでに前の晩のうちに始まる。
夕ご飯の片付け(後述)の後、朝食用の食器としてシリアルボウル、カップアンドソーサー、ジュース用のグラス、スプーン、布ナプキンを食卓に並べ、さらにそのシリアルボウルの中に各種の薬(降圧剤とかコレステロールを下げる薬物とか)とサプリメントを入れておくのはサイモンの役割である。
翌朝、コーヒー豆を電動ミルで挽いて(必ずしも毎日ではない)、コーヒーを淹れ、ジュースを注いでおくのもサイモンだ。
私がシャワーを浴びて食堂に降りていくと、サイモンがコーヒーを注いで下さり、私は自分で食べる分のシリアルを硝子の入れ物から取って、ミルクを注ぐ(食卓に載せるシリアルが箱のままではないところにこだわりがあるとみた)。
食べ終わるとそれらの食器をdish washerにセッティングするのもサイモン。
というか、dish washerは彼の管理下にあるようで、ご夫婦二人のときなどに一度の食事でdish washerが一杯にならないと、1日分くらいは溜めておくようだが、その判断はサイモンがしている。
この辺の合理性がないとhouse-keeping sharingはうまくいかないとみた。
普段のランチはヴェロニカはたいていヨーグルトと果物を家から持って行くだけ。
サイモンは外で食べているらしい。
で、自宅で夕食を食べる日には、ヴェロニカが料理を作る間に、サイモンはdish washerから食器を片付け、テーブルクロスを掛け(たぶんお客様バージョン)、夕食用の食器とともに布のナプキンやカトラリーを並べ、料理が出来るのを待つ。
ヴェロニカの偉いところは、料理を作るそばからキッチンを拭いたり、鍋釜を片付けたりするところだ(私は食べる方が気になって、つい後回しにしてしまう)。
食べ終わると再びサイモンがdish washerに汚れた食器をセッティングし、朝食の準備に取りかかる。
上記は普段のサイクルで、一緒に過ごした土曜日の様子は以下のような具合である。
だいたい普段と同じ朝食の後、8時から開いているMarks & Spencer(デパートの高島屋みたいなものだと思って下さい)の食料品売り場に車で1週間分の食料を買い出しに行く。
よく分からなかったが分担が決まっているらしく、店に入るとサイモンはさっさとカゴを持って歩いていく(たぶん、朝食用のパンなどが担当なのだと思う)。
この日は他のご夫婦もお呼びして5人のディナーになるので、ちょっと量の多い買い物になったと思う。
ヴェロニカ曰く「Marks & Spencerのはちょっと高いけど、その分品質が良くて長く持つから、結局お買い得なのよ」
ちなみに、このときびっくりしたのは、数年前よりも「半調理品」の種類が豊富になったことだ。
冷凍食品ではなく、冷蔵レベルのもので、メインの肉か魚料理+付け合わせのセットなどが、後は電子レンジをかけたり、グリルすれば良い状態になっている。
とにかく種類が豊富で、しかも栄養価を考えたアレンジになっており、作り方の説明も簡潔かつ分かりやすい。
半調理品というとアメリカのTVディナーのような悪いイメージしかなかったが、このレベルならかなりの線を行っているとみた。
こういうものを使うことに罪悪感を感じると、work & life balanceは難しい。
さて、この日は特別だったので、さらに別のお肉屋さんやチーズショップにも行ったが、戻ってきてヴェロニカはデザートのチョコレートムースを作り始めた。
そのお手伝いをしながら横目で見ていると、サイモンは地下室からアイロン台とアイロンを食堂に持ち出して、乾燥機一体型洗濯機で上がった洗濯物にアイロンを掛ける。
ナプキンやテーブルクロスにも綺麗にアイロンを掛けておられるのを見て、かなりの頻度でクリーニング屋さんに出してしまう自分を反省。
まず、アイロン台を買うところから出発しないと駄目かも。
・・・という具合で、何でもこなしてしまうサイモンである。
彼のお母さんがすでにworking motherだったので、小さいときから仕込まれたらしい。
高校からはboarding school(いわゆる寄宿学校)だったのも、基本的に自分で出来ることは自分でする、という精神を培うのに役立っただろう。
あまりにもorganizeされた行動パターンで、一緒にいると疲れるか楽かは、相手次第かもしれないが、「週末の昼食は12時半から」という決められたパターンを受け入れられるのであれば、きっとものすごく有り難いbetter halfであろう。
あ、ちなみに御年は63歳でヴェロニカの3つ上、知り合ったのはCambridge時代で、ヴェロニカはまだundergraduateの21歳でご結婚。
生化学についてのエッセイを書くのに、大学院生の先輩として後輩を指導したのが二人の馴れ初め。
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この日のディナーは他にジリアンとジョナサン夫妻が加わった。
実はヴェロニカよりも昔からの知り合いで、とくにジリアンについては大学院生だった頃、彼女の論文のコピーを擦り切れるほど読み、オックスフォードでPIだなんて凄いなあと憧れていた。
ジョナサンはエジンバラ大のfacultyで、最初、長く未亡人であったジリアンのボーイフレンドとして紹介して頂いたのだが、私が仙台に越したばかりの頃にJSPSで日本滞在したジリアンに同行された折に、やはり松島にご一緒した。
ヴェロニカと知り合う前にエジンバラに行ったときには、ジョナサンのお宅に泊めて頂いたこともある。
お二人は数年前に正式に結婚されたが、普段は別れて生活しており、週末にたいていジリアンがエジンバラに来るパターン。
ジョナサンはこれがまた家事を何でもこなせる方で、しかも日本料理(と彼が主張するもの)まで作ったりされる。
どちらかというとジリアンの方が食に対する執着心が弱く、彼らのところではジリアンがお皿洗いに回るという役割分担になっていたようだ。
お年はジリアンが62歳くらい、ジョナサンが60歳くらいだったはず。
日本の状況を考えると、20年くらい先を行っているのかなあと思った。
ディナーのメニューは、1st courseが鶉の茹で卵に人参のサラダ、2nd courseが鴨の胸肉の煮込みに野菜のグリルの付け合わせ、そしてチョコレートムース。
鶉の卵はもちろん、ただ茹でたものを食卓で殻を剥き、クミンを加えた塩を付けて食べるというシンプルな料理(うちのラボでもできる!)。
クミンの香りがちょっとモロッコ風だ。
鴨の方は、まず薄切りの人参、みじん切りの玉葱、角切りのパンチェッタ(ベーコンと生ハムの中間のようなイタリアのもの)、風味付けにタイム、クローブ、シナモン(丸ごと)を加えて、少量のオリーブオイルでソテーし、さらに角切りトマト缶を汁ごと加え煮込む。
一方、鴨肉は表面に美味しそうな焦げ目が付くくらいにソテーした後に、隣の野菜を煮込んでいる鍋に加え、少々煮込む。
ヴェロニカはここまでをお客様が来る前にしておき、顔が揃ってからもう一度お鍋を火に掛け、さらに栗を加えていた。
元々のレシピを見せてもらったが、どちらかというと秋から冬の初めの料理だ。
付け合わせの野菜は、スクワッシュという、瓢箪のような形をしたカボチャの一種とジャガイモを乱切りにし、皮をむいたエシャロットとともにグリル用の角皿に入れ、塩胡椒とオリーブオイルをかけて、後は暖めておいたオーブンに放り込むだけ。
「なるべく席を立たないような料理を心がけている」とはヴェロニカの弁。
私はお客様が勝手に喋って盛り上がっている声を聞きながら、キッチンで仕事をこなすのも結構好きだけど。