脳を活かす研究会

昨日5号館のつぶやきさんのところで退職した大学教授が研究所所長にというエントリーがありました。
どのような経緯で北海道大学を懲戒免職になる前にS博士が自主退職されたのかについて私はあまり興味を持ちませんが、その方は「人間性脳科学研究所」というところの所長という肩書きで、先日札幌での市民公開講座の講師を務められたとのことでした。
「人間性脳科学研究所」ではS所長の「HQ理論」に基づき、知能グッズを販売しているようです。
(詳しくは5号館のつぶやきさんのエントリーをご参照下さい)

実は、このS博士は「脳を活かす研究会」という会の発起人に名前を連ねておられます。
以前S博士の新聞報道があったときに、もしや、と思って見ましたら本当でした。
S博士はかつてCRESTも取っていた方ですので、そういう繋がりはあるのでしょう。
せっかくこの会は
本研究会の目的は、研究分野、機関、官庁の壁を越えて研究者・技術者・政策決定者の連携と相互理解を強め、脳科学の成果を社会に還元することにあります。そのために、分野を越えた協同研究、若い研究者の育成、研究者の自己研鑽などにより独創的な研究とその応用を推進し、研究の重要性を一般に広報し、効果的な研究施策を関連官庁に提言することを目指します。

という崇高な目的を掲げているのですから、今後どのように対応するのか見守りたいと思います。

かつて、脳科学振興のために「脳を知る・作る・守る・育む」という4つの領域を設定しましたが、今回は全体として「脳を活かす」ことを掲げ、「脳を読む」「脳を繋ぐ」「脳と社会」という領域に分けています。
大型研究費獲得を目指し、以前よりも産業と結びつきやすい研究が重視され、出口指向になっていることにやや危惧を覚えます。
また、いわゆる遺伝子・細胞レベルの解析についてトーンが低いことは、日本の脳科学研究のいびつさを表しているようにも思います。

研究を行うには研究費が必要で、日本ではそのほとんどが公的な資金となります。
したがって、その成果を社会に還元しなければならないことは当然なのですが、例えば、「癌の研究をしています」と言えば、聞いた人は「世のため人のためになるのだろう」とアプリオリに納得して下さるでしょうが、「脳の研究をしています」には、もう少しキャンペーンを張らなければ駄目なのでしょうね。
7年ほど前だったか、飛行機で隣り合ったおじさまに聞かれて「脳の発生、脳がどのようにして出来上がるか、その遺伝子の研究をしています」と答えましたら、「それを研究して何に役立つのですか?」とまともに突っ込まれ、当時の私は上手な説明をすることができませんでした。
「ブレインマシンインターフェースができたら、手足が動かなくなった人でもいろいろなことができるようになります。」とか「ヒト脳をモデルにし、より性能の良いロボットを作ることができるようになります」という説明は、きっと産業界や経済界の方々にも分かり易いのでしょう。
うちの研究室でも一部、出口に近い研究を行っていますが、ちょっと産業界が喜びそうなテーマではありませんね。

何か歯切れの悪い文章になってしまっていますが、少なくとも、研究者コミュニティーとして、似非科学は排除することだけは最低限必要なのではと思いました。
by osumi1128 | 2006-05-03 23:16

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