国家の品格

巡業から仙台に戻る新幹線の中で『国家の品格』(藤原正彦著、新潮新書)を読んだ。
「今頃」と言えなくもないのだが(何せ、購入したのは第24刷)、あまりに「流行っている」とかえって読みたくなくなるということもある。
また、タイトルの『国家の品格』というところに抵抗感を感じたことも事実。
「品格」は人間であれ組織であれ国家であれ大切なことだと感じているが、それをストレートにタイトルにされると、一体どんな思想家なのか?と引いてしまっていた。

この方の本は初めてだったので、今日知ったのだが、数学の先生らしい。
したがって、随所に「数学礼賛」の言葉が出てくる。
ま、それは本書の主張でもある「自分の身近なところから愛情を注ぐべき」(家族愛→郷土愛→祖国愛→人類愛)というポリシーに矛盾しないことでもある訳だが。
(郷土愛と祖国愛の間くらい?)
さて、藤原氏は天才が生まれる条件として3つ挙げておられる。
その1:美の存在
その2:跪く心
その3:精神性を尊ぶ風土

この中で、藤原氏はインドの偉大な天才数学者ラマヌジャンという方の生まれ故郷まで足を運び、南インドの寒村に9世紀から13世紀に造られた美しい寺院を見いだして「数学には美的情緒がもっとも必要」という説は間違っていなかったと納得されたらしい。

常々思うことだが、「美しいものを尊ぶ気持ち」というのは、たぶんどんな精神活動にとっても重要なことではないだろうか?
私自身は分子レベルの脳科学をメインに仕事しているが、その分野においても「海馬の構造は美しい」「この分子の発現パターンは美しい」という具象レベルから、「この仮説は美しい」という抽象レベルまで、さまざまなところに美はおわす、と思う。
そして、その美しさを求める気持ちは、研究という活動においても大きなmotive forceになるし、でっち上げのようなことを自然と排除する行動規範につながる。

さて、この本の書評をネットで検索したら3桁くらいは出てきそうだ約15万件ヒットしたが(例えばこちら)、私が取りあげるとしたら、「国際人を育てるのに英語の早期教育を義務教育としてするのはナンセンス」という点だ。
私自身は、2歳までに英語の歌や物語を意味もよく分からず聴いていたり(母が留学先から持ち帰ったソノシート)、小学校3−4年生の頃からお友達のお母様(英文科卒だが日本人)から英語のレッスンを受けたので、ある意味早期教育を受けたお陰もあってか、「どこに留学したのですか?」と聞かれることが多い。
(ただし、中学生以降は、自分の意志で毎日『百万人の英語』というラジオ番組を聞いていたので、受動的な体験だけではない)
だが、拙著『プレゼンテーションの基本』のコラムにも書いたことだが、「英語が喋れる=国際人」では決してない。
アメリカ人の多くが(もちろん個人個人による)、自国の利益しか考えず、いかに国際人としての資格がないことは、改めて私が言うことでもないだろう。
それ以上に「話す中身(=教養)」が無ければ、いくら喋れても意味がない。
お茶を始めようと思ったのも、大学から大学院時代に外国人から「Tea ceremonyとはどんなことか?」と聞かれて答えられなかったことを恥と思うからだ。
高校時代に、たった1コマ時間数が少ないために「日本史」ではなく「地理B」を選択したことも、その当時は貴重なお楽しみの1時間であったが、今では後悔至極である。
私の歴史教養は中学レベル+安土桃山(千利休の頃)だと思う。

結論:ゆとりが多くなったと言われる初等教育において、他の科目を削ってまで英語を教える意味はない。

*****
本日の統合脳X未来館シンポジウムは150名くらいの聴衆であった。
若干遅刻という失態のため、ご挨拶を頂いた統合脳代表の丹治先生、本企画をされた秦羅先生、もう一人の講演者の饗場先生、未来館の長神さん始め関係者の方々にはご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。

トーク2つの後、休憩を挟んで、回収した質問票をもとに、長神さんの司会で饗場先生と私が答えるような形式のパネルディスカッションを行った。
カフェよりもダイレクトではないが、比較的ディスカッションの時間を多く取れたのは良かったのではないかと思う。

シンポジウム後に「脳!展」を見せて頂いた。
なかなか圧巻である。
すでに6万人を有に超える入場者があり、会期終わりまでには7万人は軽く突破すると見込まれている。
展示そのものも素晴らしいが、オレンジのベストのボランティアさんたちが生き生きとしているのが好印象。
混んでいる企画など見ることができなかったので、もう一度来たいと思っている。
by osumi1128 | 2006-05-14 22:17

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