Shaken baby syndrome

毎日が怒濤のように過ぎていくような気がするが、サイエンスの面では少しずつ、でも着実に、それぞれの研究者にとっての進展がある。
さまざまなアイディアでいくつかのプロジェクトの萌芽があるのだが、今は手足のない達磨状態で非常に悔しい。
研究は自分のところだけ進展している訳ではないので、ふと気が付くと、こちらが考えていることが論文になったりすることもあり、まあ、それはそれで、自分の仮説が正しかったのだと思えばよい。
手塩に掛けた論文が、総説等やScopeのようなところで取りあげられるのは、二度美味しいような気になる。
データを出すときには限りなく自分に批判的であることは良い性質であるが、出た論文についてはポジティブでありたい。

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5号館のつぶやきさんのところのエントリー子供を育てられない親もいるを読んで、先日、とある学会で聞いた話を思い出した。

小児神経学会のランチョンセミナーであったが、小児放射線科の医師Aさんの発表内容は「Shaken baby syndrome」というものであった。
小さな子供が事故や転落等で病院に運ばれてくる。
X線やCTを撮ると、確かに出血や骨折が認められるのだが、「ベッドから落ちて」「ベッドの高さはどのくらいですか?」「1メーターはないと思います」という会話から「Shaken baby syndrome」が疑われるというものだ。

普通に転落した場合には、案外重症ではないことが多いらしい。
また、「普通に転落」した場合には、その<直後>に受診されることが普通である。
これに対し、「帰宅後に転落した。しばらく様子を見ていたら引きつけを起こしたので受診した」というように、その子供を連れた親が<事故>発見直後に病院に連れてこないケースがそれなりの数あるという。
そして、詳しくMRIなどを撮影すると、新鮮な外傷の他に、数日前と疑われる出血や、慢性化した様子などが見られるというのだ。

脳は頭蓋骨の中に入っているが、急激に頭部を揺さぶられたりすると中で損傷を生じる(硬いお弁当箱の中に柔らかいお豆腐が入っていて、それを揺すった状態を考えて下さい)。
A先生の講演を聴いて、このような症例は虐待を受けた子供などに見られ、shaken baby syndromeという名前が付けられていると知り、私はとても憤りを感じた。
何千もの遺伝子が巧妙に働き合って、それでようやく普通の脳ができ、さらに生まれてから様々な経験を積んで完成していくというのに、それをめちゃめちゃにするような行為に対して、素朴に、許せない、と思った。

もちろん、shaken babyに対する加害者(多くの場合にはその親)自身が、さまざまな理由で心理的に被害者であったりすることも多いという。
A先生の講演でも、小児放射線医としては子供の虐待を察知し、しかるべき措置によってそれ以上虐待されないようにすることは本意であるが、その加害者に対してアドバイスするという行為は、例えば小児科医であったり、あるいは精神科医やカウンセラーの領分であると言われていた。

子供を社会全体として育てるという見方も必要であると思う。
by osumi1128 | 2006-06-06 01:04

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