個性を大事にするということ

前3回分のエントリーについては、いろいろな方々から沢山のコメントを頂きました。
それぞれがとても意味深く、我が身を振り返って考える材料になりました。
本当に有難うございました。
もしかすると、7月10日のシンポジウムそのものよりも、意義があったのではないかと思っています。
その理由は、コメントを下さった方々の多くはシンポジウムでお話をされた方々よりも若い世代ではないかと思ったからです。

私なりの総括としては、まず、生物学者が変異体や遺伝子の名前を付ける際に、非常にナイーブであることが多い、という現状認識がありました。
生物学は政治からほど遠いところにあると皆思っていますので、自分たちの行為に「政治性」があるなどとは微塵も思っていないにもかかわらず、ジェンダー関係の方々から用語チェックされると問題な単語をたくさん使っているらしい、ということも理解しました。
これについては、今後、生物学者が考慮すべき(少なくとも、頭の隅に置いておくべき)点であると感じました。

一方で、「ブレンダの症例」は「性同一性障害」の例としては間違いですよ、という指摘がどのくらいジェンダー学寄りの方々に伝わったのかは、まだ疑問が残ります。
こういう点については、大御所の方々がきちんと認めて頂かなくては、学問は正しい発展の仕方をしないと私は思います。
別に、ジェンダー学の専門家は生物学者ではないのですから「ああ、そうだったのですか、それなら、意図とは違っていました」と言って頂いて問題ないと思うのですが。
元々は、マネーという学者が自分の学説を証明したいがために人体実験を行い、それが上手く行かなかったということであり(結果としてブレンダ/デビッドには悲劇であったのですが)、ジェンダー学者が行ったことではありません。
ただし、『心は空白の石版か?』という著書(The Blank SlateというSteven Pinkerの本の訳書)でも扱われているように、人間の心のありかたがすべて後天的な環境や教育によって決まるということには否定的な証拠が多数あります。

おそらく、「トランスジェンダーと言われる方達には、生物学的な根拠がある、という方が考えやすい」と、生物学者は考えます。
繰り返し言いますが、そのような方は数としては少ないと思えますが、決して「良い悪い」の問題ではありません。
同様に、男性であれ女性であれ、研究者集団は子供のいない方が恐らく一般集団よりも高い頻度でおられると私は推測するのですが(統計データは手元にありませんが)、そういう方々には「変な人」と思われると傷つく方がいるかもしれません。
さらに同様に、研究者集団ではなくても、そのような方々は、統計学的にはトランスジェンダーの方々よりも多くおられると思われます。

*****
昔、といっても、助手になってしばらくしたくらい、つまり、30代になったくらいの頃だったかと思うのですが、とある友人(生命科学研究者:故人)から「人と違う人生を歩むことを躊躇ってはいけない」と言われました。
その方は、ほんの2年年上でしたが、研究者としては当時すでに輝かしい業績を挙げておられ、その方と知り合ったお陰で、世界の中での自分の研究の立ち位置を教えて頂いたようなものでしたから、その言葉にはとても重みがありました。

自分は一人っ子でしたので、この世代の中ではマイノリティーで、恐らくそうではない方々には分からない被差別意識があります。
高校までは男女同数の学校で育ちましたが、大学以降は極端に男性の数が多いところに放り込まれ、ではなく、勝手にそういうところに行ってから気が付いたのですが、やはりマイノリティーです。
さらに、その中で基礎研究者になった者は極めてマイノリティーです。
さらにもっと言うと、そういう集団の中で女性であるということは超マイノリティーです。
お茶のお稽古のお友達(女性)からは、例えば土日でも職場に行くことなどについて「変わってるね〜」と思われています。
(仙台では職住近接なので、さほど抵抗がない、ということもあるのですが・・・)

私の意識の中では、私という人間は十分「変な奴」であり、それ以上でもそれ以下でもないと思っています。
したがって、自分の考える「正しいこと」がすべて世の中に通用するとは思っていませんが、「あまりにも理不尽なこと」は改善する努力を、卑近な大学の中のレベルから国の施策に関わることまでしているつもりです。
個人個人の小さな力が集まることによって世の中を変えられると、私は思います。
by osumi1128 | 2006-07-15 00:48

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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