「女子高校生夏の学校」と「生化学若手夏の学校」
2006年 08月 20日
仙台から大宮経由、埼京線で川越、東武東上線で武蔵嵐山という駅で下車して、国立女性教育会館というところに行った
開館は1977年とのことだが、緑の多い広い敷地内に宿泊棟や研修棟が点在している。
お盆明けで残暑の厳しい時期。
ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクホーシの合唱というのは久しぶりの感覚だ(仙台ではセミといえばヒグラシがメイン)。
参加者の女子高校生は、北は北海道から南は九州まで全国から集まった百名余。
2泊3日の合宿の間に理系進学へのモチベーションを高めてもらうというのが趣旨。
さまざまな年代の女性(10名のうち1名のみシニアの男性)による講演、実験デモやポスターセッション、そして学部生・大学院生のお姉さんチューターが工夫をこらした企画と盛りだくさんなメニュー。

建設会社で橋の設計等に関わった方のお話や、無重力実験のお話などは普段聴くことが滅多にないのでなかなか興味深いものであった。
分子生物学会・発生生物学会・神経科学学会では「自分のアルコール代謝酵素遺伝子の型を判定する実験」と「いろいろな細胞・組織・ゼブラフィッシュ胚の観察」を日大のNさんおよび遺伝研のHさんを中心として企画され、普通の研修室に遠心機、PCR機、顕微鏡等を持ち込んで行った。
高校の理科の先生も企画委員として参加されており、実習全体の説明のされ方はさすが日頃高校生を相手にしているだけあって、要点をまとめ、注意を喚起したりして、なるべく正確に、確実に伝わるような説明のスキルを感じた。
(学部の1年生相手の授業でも参考になりそう)
それにしても、現役高校生は「若い」ですね(溜息)。
チューター企画のクイズ大会などで大盛り上がりの様子を、私と同世代の方たちはまるで父兄参観のように眺めていました(苦笑)。
あ、それから国立女性教育会館ではトイレの表示が男女同色でした。
形だけで見分けなければならないのは、なかなか不便かもしれないと思いました。
報道関係者も取材にいらしていたので、いずれいくつかのメディアに掲載されたらアップしておきます。
関係者の皆さん、とくに学生チューターの方々、本当にお疲れ様でした!
※画像2枚目はお酒のない懇親会の模様。

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土曜日午前中に夏の学校で講演をし、表彰式、閉校式を済ませた足で、そのまま「第46回生化学若手夏の学校」のシンポジウム「情報発信しないと“良い研究者”になれないって本当ですか?」で話をするために東大へ。
理学部2号館の階段教室で「社会の中の研究者:さまざまなアウトリーチ活動の必要性」というタイトルで講演。
「“情報発信”とは、まずは論文発表である」と釘を刺した上で、研究者コミュニティーとして他分野の研究者、行政、産業界、次世代に成果を伝えることは大切であり、その方法にはいろいろある、というのが内容。
他に、3名のシンポジストの講演があり、さらに総合討論。
九大のNさんは「研究者の本分は研究を行うことである」という主張で、このおかげでディスカッションは大いに盛り上がった。
私自身も基本的にはこれに賛成で、とくにこれから自分の研究スタイルやその分野における立ち位置を確立しようとする若手研究者までもが闇雲に巻き込まれるべきではないと思う。
ただし、その上で、分業的にアウトリーチする、科学コミュニケーションに携わる人は必要であると考える。
新聞社のHさんは「新聞は社会の悪を問いただすのが本務であり、科学の成果を掲載するよりスポーツの記事を載せた方が部数は伸びる可能性があり、よって<もっと新聞で科学記事を取り扱ってほしい>というようなお願いをされても対応できない」と言われた。
もう一人のシンポジストである東大のTさんは、所属する植物系の学会で「市民からの質問に専門家が答えるコーナー」が非常に人気があるという例を披露され(残念ながら、講演そのものは聞き損ねたが)、これは神経科学学会などでは是非必要なことなのではないかと思った。
Nさんは「税金を使って行っている科学研究の成果を発信する役目は本来国であるべき」と主張。
だが、現状においては、国にはそういうことを行える人材がいない。
したがって、国民から怒られないように、国は科学者に振ってくる。
この状況を変えるには、科学技術コミュニケーターをさらに配備するか、政府機関に一定比率のPhDなりポスドク経験者なりをを登用することが必要だと思う。
「野球の振興や、次世代の野球選手を育てるには、イチローがひたすら素晴らしい成績を挙げることが重要で、ファンサービスなどしている場合ではない」
ということもあるが
「野球業界としては、イチローの写真を撮ったり、記事や本を書いたり、解説を行ったりという人も必要」
というアナロジーだろうか。