大阪大学大学院生命機能研究科からの報告書

すでにonlineで読まれた方も多いと思うが、ちょうど届いたNatureの9月21日号の冊子のNEWSにMystery surrounds lab death (p253)という記事が出ている。
かなり終わりの方に
Japanese universities often respond slowly to suspicious of fraud, and aren't known for their transparency.

と書かれているが、私は今回の件は対応が遅いとは思わない。
問題のJBCの論文がonline publishedになったのが7月12日。
これがwithdrawnになったのが8月2日で、調査委員会が調査を始めたのは8月9日となっている。
どこでも8月はお盆休みを含むので、通常の授業はないし会議も開きにくいことは容易に想像できる。
助手の方が亡くなったのが9月の1日で、その時点でどこまでまとまっていたのかは部外者の私には分からないが、新聞報道が始まったのがその頃で、ついに報告書として公表されたのが9月22日である。
その内容については、週が明けた本日、研究科長からのメッセージとともに生命機能研究科のHPに掲載されている。

40ページに渡る報告書(PDFファイル)は、非常に科学的なデータの説明と論理展開をもって、確かにCorresponding authorで研究室主催者である教授が、他の共著者の了解を得ないで、データを改竄したことを明らかにしている。
論文の中の図がどのように改変されたか、またそれを示すメールのやりとりなどが、調査できる範囲で最大限に詳しく説明されている点は、恐らく、今後、(起こってほしくはないが)他の同様の調査を行う際には大いに参考にされるであろう。

データの改竄の多くは、コンピュータ上で画像をいじって作ってある。
調査委員会は、例えばblotの上に見られる小さな傷が、コントラストや明るさをいじって改竄したデータでも同様に認められるなど、非常に細かい点をきちんと見落とさず、さらに、同様の処理を「再現」してみるまでの科学的態度で臨み、99.9%の確からしさで捏造と判断しているようだ。

もっとも重要なことは今後の対策である。
研究科長談話の最後には以下のように記されている。
生命機能研究科は、科学研究上の不正防止を強化するために、次の対策を講ずることを確認しました。
1.研究倫理教育の強化:研究倫理に関する教育を、学生から教員に至るまでさらに徹底して実施すること。科学研究の不正の種をなくすことが大切です。
2.研究室の閉鎖性の排除:研究室をより開放的にし、研究室間の交流をより盛んにして、研究活動が閉鎖的になることを防止すること。このことが、研究の不正の芽を摘むことにつながります。
3.告発者の保護:雑誌の査読者の目をくぐり抜け、研究者によって認知されかけた不正が今回明るみに出たのは、共著者の勇気ある行動によるものです。このことを肝に銘じ、学術上の不正を正義にもとづいて指摘する行為者を保護する体制を、一層強化すること。
4.調査の公正性の保証:学生、研究員、教員が研究の不正に気がつき、告発を行おうとしたときに安心してそれを行えるよう、また被告発者の人権を損なわぬよう、公平に行う調査のプロセスを開示すること。
5.研究科全体による対応:学術上の不正にとどまらずさまざまの問題について、学生、研究員、教員などすべての研究室メンバーが研究室内では解決困難な問題に直面した時に、それを相談して解決するためのシステム、迅速かつ柔軟な対応ができる体制を、研究科内に制度として整備すること。


ただし、この調査では、定年半年前の教授が(米国でラボを構える準備をしていたとはいえ)何故このような行為に及んだのか、そして、共著者の助手の方は何故、自ら死を選んだのかについては触れていない。
それは、科学者で構成される論文捏造に関する調査委員会の範囲を超えていると私は思う。
おそらく、心理学の専門家などが加わって頂く必要があるだろう。

不幸にして事件に巻き込まれてしまった研究室のメンバーの若い方々の将来がこの件で傷つくことがないように心から願うとともに、自ら死を選んだ助手の方のご冥福を祈りたい。
by osumi1128 | 2006-09-25 23:28 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30