誰のために原因究明するのか?

安倍内閣の初の所信表明が行われ、「美しい国日本」「筋肉質の政府」「構造改革」「教育改革」などのキーワードが盛り込まれていた。
教育改革は是非進めて頂きたいが、どのような方向になるのかはよくウォッチしなければならないだろう。
すでに27日付けの報道で、伊吹文科相が「小学校での英語教育必修化は時期尚早」という考えを示したというが、私はこれには同意見なのだが、すでに文科省が進めようとしていたことを、いきなり内閣改変で変わったらどうなるのだろう?

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大阪大学大学院生命機能研究科の続報(9月28日付けasahi.com)では、研究科が当該教授の科研費について「不正行為のあった研究への支出は許されない」として自主的な支出停止措置を取ったとされている。
つまり、その研究室ではほぼ確実に実験は止まったであろうことが予測される。
もしかすると、学位取得も迫った学生さんもいるかもしれない。
きっと、今、研究科内ではそのような方達の対応に追われていることだろうと推測する。

柳田先生のブログでは、以下のように書かれている。
阪大杉野事件の続報で、研究科が科研費の支出の停止を決めたとか、報道がありました。当然の処置なのでしょうが、ただ研究室のメンバー達はどうなったのか、いったいどのような研究生活をしているのか、まったく罪のないどころか、被害者でしかない、彼等はどのような状況にあるのか、わかりません。
報道があったらいいのですが。
マスコミ関係者とは、このことでずいぶん話しを聞く機会があるのですが、杉野研究室の関係者と話している気配があまりありません。努力をすれば会えるとはおもうのですが、その段階に至る前にあきらめてしまうようです。学問のカーテンというか、厚くて中は分かりにくい世界のようです。特に文系出身のマスコミ人にはきつい事件のようです。まともな想像力が、この事件には働きにくいようです。


また5号館のつぶやきさんのブログ
匿名で気軽に書いてくださいでは次のような記述がある。
 今回の大阪大学の事件では、調査委員会が今までになく緻密な調査を行い、教授のねつ造を証明し、懲戒免職処分へと導くことができました。このことは、今までの大学や研究機関で起こった同様の事件のようないい加減な調査や処分ではすまないところまで自分たちが追い込まれてきていると、研究者側が認識してきたことを意味していると考えることもできます。しかし、多くの人が指摘しているように、助手の方が自殺されたことと今回の事件の関係を解明するという意味ではまったく不十分な報告しかされていません。


どちらの先生も、生命系研究者としてこの事件を重く捉え、どのように構造改革をしたらよいのかについて考えようとされている。
とくに、stochinaiさんは「匿名でのコメントを!」と訴え、一人ひとりの力は小さくても、それが集まることで状況を変えようと考えておられる。

ただ、私は現時点において、「何故、共著者の助手の方が自殺することになったのか」という原因究明よりも、その方のご家族や、同様に被害者である研究室の方達のプライバシーや気持ちの方が大切だと考えている。
犯罪被害者が報道活動によって二次的にさらにダメージを受けるということは、『<犯罪被害者>が報道を変える』(高橋シズヱ、河原理子編集、岩波書店)に詳しく書かれている(ライフログ参照)。
また、8年ほど前に大切な友人が自殺により亡くなった際に、残された奥さんとも仲良しだっために、他人があれこれ詮索することは止めて欲しいと感じた経験がある。
助手の方が自殺しようとまで思ったのにはさまざまな理由があるだろうし、ぎりぎりのところでは気持ちのゆらぎのようなものも作用したのではないかと想像する。
だが、今、周りの方達の証言を集めて、推論を組み立てるのは、誰のためになるのだろう?

当該教授への処分については、大学の処分は固まったところであるし、次の研究費申請はおそらく5年はできないであろう(文科省の不正行為へのガイドライン:9月13日のエントリー参照)。
今後は、<業界>としてどのように対応するのか、ということが大きく残されている。

先頃、日本学術会議会長の座を退かれた黒川清先生のHPに科学者の不正行為ーその2として、9月3日付けの読売新聞の特集記事への寄稿が掲載されている。
いい加減な受け答えをすれば、本人だけでなく、指導している教授の能力まで疑われる。日本では仲間同士ほめあったり、有力教授を敵に回したくないから問題点の指摘を控えたりして、学会が間違いや不正を防ぐ機能を果た していない。

関係する学会として、今回のケースをきちんと取り扱い、今後の対応を決めることが重要だと思う。

最後に繰り返すが、論文の捏造が証明され、当該教授の処分が決まった次に必要なのは、研究室の方達の身の振り方が決まること、そしてその心のケアである。
後者の為には、「真相を究明しろ」と大阪大学に迫るべきでないと思う。
by osumi1128 | 2006-09-30 00:39 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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