細胞を作る?

土曜日のお昼でJAFoEが無事に終了し、運営委員による反省会の後、仙台に向かう新幹線の中で書いている。

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日米先端工学シンポジウムの残り2つのセッションはSystems biology & synthetic biologyとOrganic electronicsというものであった。
前者はCDBの上田さんにお願いしてセッションチェアになってもらったのだが、「人工細胞」を切り口にして、MEMS(micro-electronics machine system)から、RNA工学やDNA工学を使って現状の技術の最先端を紹介するとともに、この問題の抱える倫理面まで扱うという、非常に考えられたセッションだった。

5年前にCOEで工学系の研究者と交流する機会が増え、だんだん彼らの特徴を理解するようになってきたが、どうもエンジニアという人種は、ひたすら何かを「作りたい!」という気持ちが強いらしい。
しかも、課題が難しくなればなるだけ燃える、という「匠」としての性質も備えている。
ときには、「作れるからとことん追求してみよう」ということが先で、「それ、実際には何に使うの?」とか「リサイクルできる?」という点は後回しだったりすることもあるのだが。
一人目のスピーカーの東大先端研の竹内さんの記事はこちら。

二人目はカリフォルニア工科大学の準教授の女性だったが、RNA干渉等を使って分子ネットワークや代謝を制御するモデルについて紹介していた。
発表のあった金曜日の夜ご飯の席が隣だったのでいろいろ尋ねてみた。
「いつ頃、今のような研究をしたいと考えるようになったの?」と訊くと、元々、学部は工学部で、大学院が合成化学、そしてポスドクでは分子生物学的テクニックを2年学び、3年前にカルテクで自分のラボを立ち上げたところという。
ポスドク先を選ぶ際には、Synthetic biologyをやりたいとかなり具体的に考えていたらしい。
アメリカで学際的な新分野が立ち上がるのは、自ら進んでこのような異なる分野で学んで、自分の学問なり研究なりを作ろうとする若い人が多いからなのだろう。
日本のように、学部から大学院の間に学生を囲い込んで、まず「技」を身につけさせるという育て方とは大きく違う点だと思う。
また、業績があれば1回ポスドクをするだけで自分の研究室を立ち上げられる人も多いから、若手の自由な発想を最大限に生かせるのだろうか。

日本でもいよいよ来年度からは、助手、講師、助教授が「助教」と「準教授」に変わり、「助手は教授の職務を助ける」という縛りがなくなることになるが、どのように運用されていくのか見守らなければならないだろう。
現行の大学事務体制で「助教」が独立研究室という扱いになれば、降りかかる雑用が多くなって、やる気や才能をつぶすことにもなりかねない。

4人目のスピーカーの早稲田大学の岩崎さんは、生物時計を専門とされる生物学寄りのバックグラウンドだが、なんと、「切り紙」でコンテンポラリー・アートをされつつ、さらに文化論やら科学コミュニケーションやらもこなすマルチな才能を持った方だ。

「切り紙」はカッターで紙を切りながら立体を作り上げていくもので、とても「身体的な感覚」でクリエイトしているとのこと。

ちなみに、「細胞は作れるか?」は、今月末の「サイエンスアゴラ」26日でも議論される予定。
by osumi1128 | 2006-11-12 02:04 | サイエンス

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