本は文化のバトン

朝から夕方まで会議が続いてめまぐるしい日でした。
年末恒例の忘年会があり、研究科の名誉教授が18名ほどお見えになったとか。
皆様お元気で喜ばしいことです。
ご退官年度の古い順にスピーチをされました。

各自いろいろなお料理を取ってきて、着席で頂くという形式だったのですが、和洋あるスタイルは、そういえばシンガポールの学会中に出たバイキングのランチも同じように、インドも中華もあったなあ・・・と思い出していました。

解剖の名誉教授のI先生という方が寄ってこられ、「この本はご存じですか?」と尋ねられました。
見ると、1963に出版された「The Elements of Experimental Embryology」というもので、著者はJulian HuxleyとDe Beerです。
発生生物学の分野では1950年代までに、ウニや両生類などを用いて、ありとあらゆる実験発生学的実験が為されたのですが、この本はそれらの知見をまとめたものでした。
図のほとんどは細密画のようなイラストであり、今から言えば古典中の古典というべきものです。
「知ってはいましたが、手にとって見るのは初めてです」と申し上げると、I 先生はこんなことを仰いました。
「自分はこの本を見たときに、ほしくて欲しくてたまらなくなった。そして、読み終わったときに、この本を、誰かそれを受け取ってもらえる人に差し上げたいと思った。先日の東北大学出版会の講演を聴いて、貴女に差し上げようと思った。」
だから、是非どうぞ、と差し出されたのです。

本は文化のバトンなのだと思いました。
私が東北大学に赴任したときには、すでにI先生は名誉教授であられた訳で、伝え聞く噂によれば大変厳しい先生であって、医学部の専門教育の始めにある骨学の試験などで、何人もの学生が落とされたということですが、その中の何人かは現在も東北大学医学部の先生であったりするのが面白いところです。
外様の私にこの本を渡して下さったI先生の想いを感じながら、頁をくってみています。
今から30年後くらいに、私はこの本を誰かに託す気持ちになっているのでしょうか?

よく見ると、1988.10.12という購入日らしい鉛筆書きのサインがありました。
木村書店とあったので、おそらく東大の近くの古本屋さんだったのかなと想像を膨らませました。
薄暗くて紙の匂いの満ちた空間の中で、これは、という本に出会う喜びは格別だったことでしょう。

*****
今年の仙台のイルミネーションは、「定禅寺通り重点主義」のようです。
勾当台公園から西道路までずっと歩道と中央分離帯の欅に小さな電球が付いて、遠くから見ると、道全体が浮き上がったように見えるくらいです。
その分、青葉通りはちょっと貧粗なのは仕方ないですね。
註:綺麗だからといってずっと見ていると、風邪を引くので注意!
by osumi1128 | 2006-12-14 00:00 | 雑感

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