ホルモン補充療法
2007年 02月 06日
書き物をするのは決まって夜で、その方が筆が進みます。
測ったことはないのですが、きっと時間当たりにタイプする文字数は倍くらい違うのではないかと感じています。
昼でも新幹線の中などで、自分の周りにバリアーを張り巡らして、気分的には一人きりの場合も集中できるのですが。
お陰様で、『エッセンシャル発生生物学第2版』が2月2日に刊行されました。
編集者の方、ご苦労様でした。
白黒の第1版も私はシンプルで好きだったのですが、第2版ではカラー版になっています。
内容もずいぶん改訂され、進化や幹細胞のことなどが増えています。
それから、『心を生みだす遺伝子』の方も、第4刷を行うという連絡を出版社から頂きました。
もともとそんなに売れるような類の本ではありませんが、細々でも重刷が続くのは訳者冥利に尽きます。
有り難いことです。
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1月25日号のnatureのNEWS FEATUEで気になる記事を読みました。
閉経後の女性の更年期障害の治療に、女性ホルモンを投与するいわゆる「ホルモン補充療法(HRT)」が行われるのですが、タイミングを間違うと痴呆のリスクを上昇させる、というのです。
研究者としての駆け出しの頃にレチノイン酸というビタミンAからの誘導体に関係する仕事をしていたこともあり、同じ仲間に分類することもできる脂溶性ホルモンとその作用については興味深く思ってwatchしています。
いわゆる「環境ホルモン」などもこの範疇に属するのですが、実際に、直接的に遺伝子の働き方を変えうる分子として、遺伝と環境の相互作用という観点からも注目に値すると思います。
さて、記事のエッセンスだけかいつまむと、これまでエストロゲン(いわゆる女性ホルモン)は脳細胞に対してポジティブな働きをすると信じられてきたのですが、「更年期障害が進んでからHRTを行うと、むしろネガティブに働く」ということになります。
根拠としては、アメリカにおける大規模なfoward studyがあるようです。
何故タイミングが問題なのか、同じ分子の効果が異なるのかについては、現時点でいろいろな仮説が成り立つと思いますが、私のアイディアは、「いったん、体が低エストロゲンに慣れたところに、HRTにより大量のホルモンに曝されることは良くない」というもので、妊娠時に極端な低栄養であり、その後、高栄養に転じた子供が大人になると各種代謝病のリスクが高くなる、などと似たような反動のメカニズムを想定しています。
エストロゲンはその他、骨粗鬆症の改善にも用いられますが、細胞分裂促進効果もあるので、癌のリスクも高まります。
どのようなプロトコールが良いのか、専門家の臨床研究に期待します。