キュリー研究所近くのカフェにて

海外出張に行くと思わずよく歩く。
都市なら地下鉄と徒歩でたいていのところに行ける。
ただし方向音痴なので、とてつもなく時間がかかることもある。

方向音痴は母から遺伝したように思われる。
もっとも男性と女性と平均値で比べた場合には、男性の方が空間認知力に長けているという報告があるらしい。
何度も通ったことがある道なら目をつぶっても歩ける(比喩)が、自分の歩いた軌跡を地図に描けと言われると降参。
ラットやマウスの行動実験で、空間認知能力を測るのに、Morris's Water Mazeというものがあるのだが、同じことをやれと言われたら「凄く馬鹿で全然学習しない」という判定をされるだろう。
だって、プールの中を泳いで餌にありつけるプラットフォームを記憶する、という課題なのだ(ちなみに、私は平泳ぎしかできない)。
(私は兼ねがね、このテストはどれだけヒトと対応するかについて疑問視している。仕方ないとは思うが、ネズミにだってもっと高度な課題を与えるべきではないだろうか?)

友人の遺伝学研究所の女性研究者(これで2名に限定)は、私よりもさらに方向音痴で、三島から東京方面に行くのに反対側のこだまに乗ったことがあるという。
彼女と「方向音痴談義」になり、方向音痴は「旅行鞄のパッキングが得意な方向音痴」と「得意でない方向音痴」に分かれるという結論に至った。
私はトランクに隙間にきちんと物を詰めるということに無上の喜びを感じるタイプなのだが、彼女はそうではないらしい。
母は「パッキングは得意な方向音痴」に分類される。
この分類については今のところNの数が少なすぎるので、徐々にデータを集めてみようと思っている。

さて、話を戻そう。
午後に市内の「キュリー研究所」でセミナーだったので、どこか美術館に行こうと考えた。
昨年読んだ『ダビンチ・コード』ゆかりのルーブルに行って、「2つのピラミッド」をもう一度見てみようと思ったのだが、残念なことに今日は休館日。
オルセーも歩ける距離ではあったのだが、もし時間がぎりぎりになって、焦って研究所に行こうとすると、最悪の事態にもなるかもしれないと思い断念。
そこで、地下鉄を乗り継いでとりあえず研究所の近くまで行こうということにした。

「キュリー研究所」はもちろんピエールおよびマリー・キュリーに因んだ研究所であるが、訪問するのは今回が初めて。
場所はパンテオンの近く、カルチェラタンのはずれとも言える。
カルチェラタンには「クロード・ベルナール通り」「パスカル通り」「ブローカ通り」など、歴史的な学者の名を冠した通りも多く、大学や研究所が集まっているエリアで、東京ならさしづめ文京区といったところ。
でも、フランスらしいなと思うのは、地域の小さなマルシェ(市場)や食料品店が集まっている通りも近接していたりして、今は春らしく苺やホワイトアスパラガスなども出ている。
ドイツに留学していた方はよくご存じだが、長い長い冬の後に出てくるホワイトアスパラはまさに春の象徴で、それを待ちわびる気持ちは、日本人にとっての春の山菜や筍、細魚、貝など以上のものがあるらしい。
それに比べるとボンに留学していた数学科の友人は「パリだとメニューには載っていない」と言っていた。

さて、ヒジョーに遠回りをし、どこをどう歩いたかまったく分からず、あちこちで人に聞きまくった結果(しかも普通のフランス人は英語が得意でない)、どうにか目指す研究所の場所は把握したところで安心し、近くのカフェでランチタイム。
(ちなみに、カルチェラタンで学生とおぼしきお兄ちゃんに"Can I ask you in English?"と聞くと"Oui. I'll try." "Do you know where is Curie Institute?" "Institut Curie???(フランス語の発音で)Sorry, I donユt know."という答え。これを数回繰り返して、学生に聞いてはいけない、という教訓を得る。)

黒板に読みにくい筆記体で書いてある中に、どうも「アスパラガス」と読めるものを発見したので注文。
すると出てきたのは「緑色のアスパラガス」であった! 残念!
(実はよく読むとたしかにAsperges verteとなっていた。)
添えられていたパンはとても美味しい。
正午頃にはまだ店はガラガラだったが、一時近くなってほぼ満席、ということはお店の選択は間違っていなかった。
本日の人気メニューは「チーズのキッシュ」「トマトソースのパスタ(メニューボードからは判読できず)」「具だくさんのサラダ(同じく)」。
いやー、いつも思うのだけど、彼ら(ここではフランス人)はよく喋ること。
しかも忙しいのは口だけでなく、身振り手振り、眉の上げ下げ(日本人よりも表情筋を多く使うようだ)、本当に違う文化や習慣なのだなあと感じる。
普通の日本人は西洋人なら「ちょっと鬱なんじゃない? カウンセラーのところに行ってみたら?」と言われるのではないかと思うくらい、平均値の比較では隔たっている(もちろん、日本人でもよく喋って表情も豊かな人もいる)。

さて、ではこれからお勘定をして、研究所に向かおう。
by osumi1128 | 2005-05-11 04:17

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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