ポーラ美術館:透明感のある建築
2007年 02月 27日
たぶん、自分のキャラクターのある面を表しているからか、この話は結構ウケるので、いろいろなところで喋っているのですが、中学生の頃には「建築家になりたい」と思っていました。
家の図面を方眼紙に描いたりして、理想の家を夢想する少女だった訳ですが、その後、「建築」するには「構造計算」をしなければならないことに気付き、急に夢はしぼみました。
実際には、「構造計算」そのものよりも、恐らく、立体的な構造物のデザイン力があったかという点において大きな疑問を感じるので、まあ、建築家になっても大成しなかっただろうなと思います。
(だからといって、生物学者として成功したかというと難しいものがありますが・・・)
そんな訳で、今でも建築物を見たり、そのデザイン画や写真を眺めたりするのは大好きです。
週末に東京に行ったついでに、箱根は仙石原のポーラ美術館を訪れてきました。
神奈川県で育った者にとって、箱根というのはとても身近なリゾート地です。
これまでにも、日本画の成川美術館などがお気に入りだったのですが、2002年に竣工したポーラ美術館をこれまで見にいく機会がなく残念に思っていたところに、ちょうどよい機会となりました。
美術館の謳い文句としては「光と緑の美術館」となっていて、確かに、航空写真で見ると深い山の緑の中に十字型の白っぽい建物が埋まっています。
設計は安田幸一さんという、当時日建設計だった方の手によるものですが、なだらかな山の斜面にすり鉢状の孔をうがち、そこに、耐震設備や配管を工夫した建物を浮かべたような構造になっているといいます。
強羅から上がってくると、道沿いのエントランスプロムナードからは、「どこが美術館?」と、全貌は見えないのですが、スライドするガラスの自動扉から中に入ると、広い吹き抜けのホールの一番上に立つことになります。
つまり、美術館本体はそこからすべて地下になる訳です。
地下といっても暗いイメージが無いのは、中央の導線がすべてこの吹き抜けのホールに通じているためであり、しかも、その壁はガラスを使っており、さらにガラスの向こうには縦に繋がる光の線が浮き出ているというデザイン。
展示室の暗い照明と、この中央吹き抜け部の透明な明るさとのコントラストが素晴らしいと思いました。
ちなみに「透明感のある建築」というのは、設計者の弁によります。
すべて、展示室がこの吹き抜け部に出られる導線になっているのは、方向音痴の私としては有り難かったです。
まあ、ルーブルでもどこでも、あの迷子になりそうな部屋の繋がりというのも、それなりに美術館の楽しさであるかもしれませんが。
展示品としては、ポーラの元会長が収集された印象派のコレクションを中心として、だれでも名前を聞いたことのあるような近代の作家が数点ずつあるという万人向きの構成。
今回は「ドガ、ダリ、シャガールのバレエ」という企画展もありました。
「バレエ」関係を集めてみた、という企画はなかなか新鮮に思いました。
お洒落なカフェとレストランの他、ミュージアムショップも充実していて、建築の本を含めてちょっと散財してしまいました(苦笑)。
その「本」の最後に「建築の周辺」として書かれていたこと。
前会長の思いを受け継ぐように、ポーラ美術館では来館者に美術品を鑑賞してもらうだけではなく、絵も環境も食事も、ここで過ごす時間のすべてを楽しんでもらうために、これまでにない美術館であろうとしている。その努力の一つが毎朝行われるスタッフ全員によるミーティングである。訪れた人と最初に接する交通誘導員、フロントや案内係、警備担当者、学芸員、そしてレストランからミュージアムショップまで、来館者を迎えるすべてのスタッフの連係プレーが美術館を支えていると考えるからだ。各自がそれぞれの立場で気付いたことを報告し合うことで、ここを訪れた誰もが心地良く過ごすことができる美術館の運営を模索し続けている。
成る程、美術館というものも、建ててしまえばそれで終わりということではなく、それが本当に美しく機能しうるかは、その中にいる「人」で決まるということかもしれませんね。