大学院生支援のあり方について
2007年 05月 03日
こちらは、生物系でどちらかといえば基礎系の20ほどの学会が連合して、共通する問題についての意見交換等を行う組織です。
10月にキャリアパス関係でシンポジウムを行う予定ですので、その話がもう少しはっきりしましたら、またエントリーします。
なにせ、現時点ではHPもないし。
本日は憲法記念日なので、メディアはなかなか賑やかですね。
このブログではそれよりも大学院生支援について取り上げたいと思います。
5号館のつぶやきさんのところで競争的資金から奨学金 というエントリーが立ちました。
引用されている元ネタは教育再生会議における議論で、大学院生支援のために、競争的資金の一部を奨学金にする、ということが提唱されている、ということです。
そもそも、日本では教員の数に比して大学院生の数が多すぎる、という根本的なことをずっと主張しておりますが、「定員」に文科省も大学も縛られており、いろいろな政策決定においてこの「定員」が重要視されてしまうのが困ったことです。
本日の日経新聞でも、政府の「規制改革会議」において、大学向け補助金を学生数に応じて配分するよう求める提言が打ち出される、という記事があり、「質より量」という思想が伺われて悲しく思います。
かつての大学院重点化で大学院生の数が大幅に増え、教員の数はそれに比例して増加することはなく、平均的に言えば、教員の負担増、大学院生にとっては指導が手薄になる、という事態を招いたことに疑う余地はありません。
「教授1名あたり毎年2名の大学院生」というのが、日本では標準的な大学院かと思いますが、(きちんとした数字を手元に持っておりませんが)、UCSFにしろハーバードにしろ、自分の分野に近い研究室では、「教授1名あたり、毎年0.5名」くらいが平均的な印象を持っています。
つまり、1つのラボには大学院生が2,3名くらいいる感じです(平均在籍年数が5年くらいでしょうか)。
その大学院生はサラリーやフェローシップをもらっているのが普通で、それはPIの稼ぐ研究費から出ていたり(競争的資金)、学部や大学等から出ている場合もあります。
(社会人大学院生は、それぞれの所属先からサラリーが出ています)
研究費で大学院生を雇う場合には、当然ながら、それぞれ別プロジェクト、ということになりますので、一人のPIがそんなに沢山の大学院生を抱えられない、ということにもなっています。
独立したてのPIには、所属機関からのサポートで大学院生が配属されるようです。
他にも、いろいろなフェローシップがあると思います。
さて、大学院生をもっと支援すべき、ということについて、私は基本的に賛成です。
大学院生の経済的支援については、第3期科学技術基本計画にも盛り込まれています。
経済的に余裕のある方のみが高度な教育を受けられる、という状態は国が介入して調整すべきことだと思いますし、いい加減、いい年なのですから、「学生気分」よりは「プロフェッショナルな修行中」という気持ちで臨んでほしいと考えますので。
ただし、大学院生を支援するのであれば、その数をもっと減らさないと、ごく一部の学生さんしかサポートされないことになることは必至です。
現状では、学術振興会のDCの採択率が15%くらいだったでしょうか、こちらの採択率を上げる、という施策もありえるのですが。
どのような仕組みで「競争的資金」から奨学金に変えるのかをよく考えないと、ごく一部の研究室にのみ集中するというような事態が生じるでしょう。
もちろん、超優秀な学生さんが集まる研究室で切磋琢磨されることにより、未来のノーベル賞学者(別にノーベル賞でなくてもよいのですが)が生まれる可能性は高く、そういうことはあっても良いのですが、「有名な研究室だから」と、学生さんの「寄らば大樹の陰」的発想がより強くなることは、イノベーションに逆行すると思われます。
「小さな研究室の方が有利」と思って、例えば独立したてのPIの元で、経済的な心配をすることなく、研究に打ち込む大学院生が増えたらいいなあと考えます。
その方が、ボスとディスカッションする時間が沢山ある訳ですし、研究不正のリスクも減るでしょう。
とにかく、大学院の定員をなくすためのロジックは何か、一旦理由があって作られた制度を変えるには、作るとき以上の理由付けが必要であることは間違いありません。
十分な議論が必要です。
憲法改正も同じことだと思います。