プロになるためには
2007年 07月 05日
アメリカからの日本人ヴィジターさんは「梅雨を経験させて頂いて…」なんてお上手を言って下さいましたが、雨は活動量を鈍らせますね。
さて、私は見ることができなかったクローズアップ現代「にっぽんの“頭脳”はいかせるか~苦悩する博士たち~」について、すでに5号館のつぶやきさんほか、何人かのブロガーが取り上げておられるようです。
つい先日、奈良先端大での会議でも、同様の「博士課程大学院生、ポスドクのキャリアパス」についての話題が出ました。
その際に、とある工学部系の方が「企業のニーズに合った教育をすべき」というご発言をされ、それに対して企業の方が「中途半端なMOTなどは必要なし。きちんとした基礎研究ができることが最も重要」という反論を出されました。
「でも、普通に大学院等の研究を進めるのに、研究室が大学院生の労働力に頼っているのが問題ですよね? 欧米のように、研究成果を出すのはポスドク中心となれば違うかもしれない」というご意見もあれば、
「そもそも、大学院生の数が多すぎる」というそもそも論も出て、かなりの時間を費やしました。
上記の企業の方のご意見としては、「研究プロジェクトを任せられる人材」というあたりを想定されているのかなと思いますが、そういう人材を育てるためには、勿論、「言われたことを遂行できる」能力以上が求められているのは事実です。
その場合、チームで仕事を進めるのに必要な、「普通の時間に来て仕事をする」とか「共通機器等の使用のルールを守れる」「後かたづけできる」などが当然という上に成り立っていることを、大学にいる指導者は意識すべきと思います。
つぶやきさんのところにenokiさんがコメントしておられます。
私もみてないので、とんちんかんだったらすみません。企業がとらないということだけ批判しても始まらないと思います。
No.92 基本計画の達成効果の評価のための調査
科学技術人材の活動実態に関する日米比較分析
- 博士号取得者のキャリアパス -
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/rep092j/idx092j.html
大学・公的研究機関等における
ポストドクター等の雇用状況調査
- 平成17年度調査 -
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat128j/idx128j.html
博士号取得者の就業構造に関する日米比較の試み
- キャリアパスの多様化を促進するために -
http://www.nistep.go.jp/achiev/abs/jpn/mat103j/mat103aj.html
といった資料に出ていますが、企業が必要としている能力は
高度な専門能力
課題設定能力、テーマへの対応能力
コミュニケーション力
マネジメント力
↓
研究リーダーとして必要な能力
です。そこをなんとか身につけるようなカリキュラムが必要のように感じます。
逆に言えばそこがなんとかなれば
「産業界においても、技術開発においては暗黙知や擦りあわせに加えて、高度な科学的知識の重要性が増大しており、潜在的にはそのような知識を身につけた人材への需要は増えているはずである。
理工系の高度な人材の需要調整には、博士号を取得する過程での環境、教育が重要であるように思われる。博士課程において、米国でいわれるような能力を身につけることができれば、本人にとっても、雇用する側にとっても大きなプラスとなるであろう。」
後藤晃 「理工系人材のキャリアパスと日本のイノベーション・システム」 科学06年6月号
という希望もあるように思います。
(すみません、コメント全文掲載です)
高度な専門能力
課題設定能力、テーマへの対応能力
コミュニケーション力
マネジメント力
↓
研究リーダーとして必要な能力
というのは、アカデミアのキャリアパスの場合でも、ノンアカデミアの場合でも、まったく正しいと思います。
私の解釈によれば、「高度な専門能力」というのは、自分が研究する分野について、過去の歴史から現在の状況までを俯瞰でき、自分の研究の立ち位置を説明できる、ということが重要だと思っています。
「課題設定能力、テーマへの対応能力」のうち、前者は自分で「超えるべきハードルを適切に設定する」ということになりますし、後者は自分の我を捨てて臨機応変に振る舞う環境適応力、という意味だと思います。
「コミュニケーション力」は、プレゼンなどが上手くできることの他、上司や部下の気持ちをくみ取る能力も含まれるでしょう。
「マネジメント力」は、自分のこと以外にさらに複数の人たちを相手にして、適材適所に能力活用を考えられることが必要と思われます。
私はこれに「逆行性に考えられる能力」を加えたいと思います。
「今日はこの実験をしたから、明日はこれをしなきゃ」という順行性の計画だけでなく、数年先の自分の目標があり、そこから逆算すると今、自分は何をすべきか、という風に、時間を逆向きに捉えることができるかどうかは、極めて重要な能力だと思います。
少し前のエントリーで、共同参画問題に対する取り組まれ方と、ポスドクキャリアパス問題の扱われ方の差について触れました。
平成18年度の「女性研究者支援モデル事業」に至るまで、先人の先生方等がどれだけ苦労と努力を重ねてこられたかについて感じるとき、自分は受け取ったバトンを次に渡さなければと思います。
、「博士キャリアパス問題」はそこまでのボトムアップなムーブメントにはなっていないのが現状ではないでしょうか。
「批評家」がいくら多くても、世界は変わりません。
小さな力を束ねて大きな力とする、そのために力を注ぐ人がいなければならないと思います。