キャリアパス関係シンポジウムにて講演

朝から新幹線で上京し、乃木坂の学術会議へ。
超方向音痴+重たいMacBookを持ち歩く+出張のストレス軽減ということを言い訳に、本日もタクシー(^_^;)。
来週は必ずジムに行かなきゃ!
で、タクシーの運転手さんに場所を伝えてご存じだったことはほとんどありません。
これがアカデミアの国会と呼ばれる学術会議のプレゼンスだと思うと、ちょっと寂しいですね。

さて、日本学術会議生物科学分科会主催、生物科学学会連合後援の「公開シンポジウム 研究・教育者等のキャリアパスの育成と課題」に参加しました。
乃木坂で行うこの手の公開シンポジウムの中では、かなり若い方達も参加していたように思い、主催者側としては良かったと思いました。

学術会議副会長・生物科学学会連合代表・東大副学長の浅島先生が、開催趣旨等のご挨拶をされ、日本学術会議生物科学分科会副委員長・東大教授による「現状分析」のお話がありました。
使われたソースは2005年の科学技術政策研究所・三菱総研の報告書と、2007年の経団連の報告書、東大自身の調査によるデータなどでした。

次に、元文部大臣、日本科学技術振興財団会長、東京大学名誉教授の有馬朗人先生による基調講演「大学院重点化とポスドク1万人計画が目指したもの、もたらしたもの」がありました。
矍鑠としてよく通るお声で、大学院重点化や科学技術基本法制定に至る歴史や背景を話されましたが、かなり迫力がありました。
かつて日本が戦後の経済復興を終え、高等教育や基礎研究がまだ欧米にはるかに劣っていると感じられたご経験を元にして、大学改革、研究費改革を進められた訳ですが、「重点化は10大学程度のつもりだった」と仰っていらっしゃいました。
科学技術基本法を推進するための第一次科学技術基本計画によって、研究力向上とオーバードクター解消のために「ポスドク1万人計画」が謳われて、1年前倒しで1万人は達成されたのですが、その後、日本経済の低迷が続いてポスドク経験者を企業に吸収することは、当初の目論見のようにはいきませんでした。
でも、この10年の間に論文数は飛躍的に伸びました。
これは大学院生に国際誌に掲載される論文を書かせたことにもよりますし、ポスドクの貢献度も非常に大きいと思います。
有馬先生の一番のメッセージは、「日本の教育費は国のGNP比にして低い」「訴えていかなければ科学研究費は削減される」というところにありました。
大学の定員削減をこのまま続けていってよいのかどうか、このままでは、韓国、中国に抜かれる日が近い、学術会議、頑張りなさい!
アカデミアの長老から渇を入れられた基調講演でした。

この時点ですでに15分遅れになったのですが、休憩を挟んで自分の講演になりました。
タイトルは「博士号の価値〜生物科学系のキャリアパスを考える」にして、博士学生〜ポスドクの問題をアカデミア全体のキャリアパスの中で位置づけて話をしました。
その中で、「岡本の公式」というものを紹介したのですが、これは理研・脳センターの岡本さんとお話ししたときに教えて頂いたもので、「PIになれる確率の計算方法」です。

A: 1年に空く独立したポジション
=[X: 独立した研究室の数]/[Y:独立した研究者の平均在籍年数]
B:1年に新しく加わる人数
=[N:1研究室が1年あたりに新たに取る学生の平均数]x[X:独立した研究室の数]
C:新人が将来独立できる確率
=A/B
=「X/Y」/[NxX]
=1/[NxY]

そうすると、結局Xの数がいくつであれ、独立できる確率は「研究室が1年あたりに新たに取る学生の平均数」と「独立した研究者の平均在籍年数」の積に逆比例するということです。
例えば、最近のように若手PIをどんどん推進すると、Yの値が20年くらいになり、もしNが平均2名だとすると、独立できる確率が1/(2x20)=1/40ということになります。

かつては、この値が1/(1x10)=1/10くらいだったかと思いますし、また30年前くらいまでなら新設の大学や学部が沢山できたので、もっと割は良かったかもしれません。
ただし、大学院生そのものの絶対数もはるかに少なかったことも事実です。

ですから、現時点においては、40名に1名のPI候補者だけでなく、39名の将来を真剣に考えることがどうしても必要なのです。
重点化は、有馬先生は全国どの大学でも行うとは意図していなかった、というお話でしたが、文科省と大学はともにこの39名の将来を考える責任があると私は思います。

では、その行く先ですが、私自身は何よりもまず、「大学・大学院教員を増やすべき」と思います。
そうでなければ良い大学院生を育て、良いポスドクを輩出することは不可能です。
また、技官の方が定年になったときに、定員削減で補充しない、あるいは重点化のときに助手として使ってしまった、などの煽りを受けて、研究支援者がどんどん少なくなったことも、教員がひたすら忙しく、教育・研究の質を保つことが難しい点だと思います。
ですので、もし現状の大学院生数を国として育てるならば、そして、ポスドクの就職先を考えるならば、教員の数や終身雇用の技術員(プロジェクト雇用という不安定な身分ではなく)を増やすしかありません。
この自明のことを達成するのに、どのような作戦を立てればよいのか、大学等教育機関、学術会議、学協会が連携して進めるべきと考えます。

もう一種の出口は「初等中等教員」です。
アメリカでは修士の学位を持つ初等教員が50%、博士号を持つ教員が10%弱いるという数字があります。
初等中等教員の先生方が、かつて今よりも尊敬されていたのは、先生方の学歴が生徒さんの親御さんより高かったことも関係するのではないかとも思っています。
このためには、教員免許の制度や研修システムを改革する必要があります。

その他には、研究費配分機関におけるプログラムオフィサーがもっと充実すべきだと思いますし、何度も言っていることですが、行政への門戸がもっと広く開放されることが必要だと思います。
教育や科学技術を担当する大臣が博士号を持っていないのは、日本として恥ずかしいことと感じます。

その他、研究機関や学協会の広報関係も公益法人化を迎えてますます重要になるポストだと思いますし、日本における学術雑誌の編集員ということも、学協会が検討すべきことだと考えます。
企業のことについては、他の講演者がおられましたので今日は割愛しましたが、「青田刈りは止めて欲しい」「<中途採用>という言い方も止めて欲しい」と申し上げておきました。

他の方の講演については、改めてレポートします。
本日はこれにて。
by osumi1128 | 2007-10-19 01:34 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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