オールジャパンの幹細胞研究に向けて

今年初の出張は木曜日、文科省での「第1回幹細胞・再生医学戦略作業部会」という会議でした。
丸の内の三菱ビルの仮住まいからお引っ越しして虎ノ門の新しい庁舎に移ったのですが、コンビニやカフェなども充実して、霞ヶ関エリアの方々のQOLが少し向上したように思えます(^◇^)
会議は公開だったのですが、非常に多数の傍聴者があり、NHKのカメラクルーも入っていて、会議の前からテンションの高さを感じましたが、議事次第を見ると「副大臣挨拶」で始まるとのこと。
うーーーん、かなりの熱の入れようですね……。

今回の会議は、昨年11月に京大の山中伸也さんがヒトの皮膚の細胞からiPS細胞(inducible pluripotent stem cells)ーいろいろなメディアでは「万能細胞」と呼ばれる細胞ーを作ることに成功した、という論文発表を受けて、日本としてこの分野の研究体制を早急に戦略的に考える必要がある、とのことになり、年末ぎりぎりにメンバーが揃えられ、松の内の10日の朝からの会議となった次第です。

会議の内容はいずれ文科省のHPにも公開されるはずですが、とりあえずは、傍聴席にいらしたK_Tachibanaさんの投稿によるサイエンスポータルの記事をご覧下さい。

議論に移る前に、まず山中さんからの要望が述べられました。
12月に京都で開催されたシンポジウムは残念ながら参加できなかったのですが、ほぼそれと同じ内容とのことでした。
山中さんのプレゼンはいつもとても味があるのですが、「現在は駅伝を山中研が一人で走っている状態。アメリカでは<チーム・ハーバード>や<チーム・MIT>や<チーム・UCSF>などが第1区、第2区…と走りつないでいる。早急に、<チーム・ジャパン>を作る必要がある」という比喩で話されました。

ここからが大切なことなのですが、<チーム・ジャパン>として、<iPS細胞研究コンソーシアム>を作りたいというお話で、それはバーチャルな組織で、いくつかの研究室や研究者が参加し、連携を図って研究を推進し、全体として強い特許を取るなどを目指しています。
そのためには、いくら組織ばバーチャルといっても、具体的に国際特許を取るための人材(弁理士や英語が堪能な弁護士などなど…)の確保を、是非早急に行わなければなりません。
また、治療開発研究を進める上では、法整備も必要です。
受精卵から作られるヒトES細胞と違って、生命倫理に抵触することは少ないiPS細胞ですが、その利用のガイドラインを早急に作らなければならないでしょう。

私はこれに加えて、「コンソーシアムでは社会とのインターフェースとなる広報的人材も必要不可欠」ということを強調しました。
K_Tachibanaさんは「トップダウン的」というのはどうか、というご意見のようでしたが、私は科学コミュニケーションを専門とするポストの創出という意味では、トップダウンに行うことに、現時点で意味があると思っています。
このようなプロジェクトにおいて科学コミュニケーションの必要性が<見える>形になることが、大きな波及効果をもたらすと考えるからです。
このような立場の方は、元研究者(年齢問わず)でも構いませんし、ライター系の方で科学に興味のある方でもよく、数名がチームとなって自律的に進められるような体制が好ましいと思います。

ちなみに、すでに文部科学省再生医療の実現化プロジェクトでは(財)先端医療振興財団 研究事業推進課の方で広報関係をバックアップされているようで、おそらく12月25日のシンポジウム「多能性幹細胞研究のインパクトーiPS細胞研究の今後」の折に配布されていた一般向けのパンフレットは、なかなかよくできていたと思います。

iPS細胞はどうしてもその「応用面」が強調されますが、山中さん自身も繰り返し述べておられましたように、「今後、iPS細胞を使うことで、生命現象の基本原理がさらに理解されるようになる」といった「基礎研究面」も等しく大切です。
科学コミュニケーションでは、そういうことも伝える必要があります。
また、iPS細胞以外の幹細胞研究も並行して進めるべきでしょう。
さらに言うと、幹細胞研究だけが重要なのではなく、ライフサイエンス系であれば癌、免疫、脳科学など、それぞれが競い合って、全体として日本のレベルがさらに向上することが望まれます。

本当は、マウスのiPS細胞の論文が発表されたときには、次にヒトiPS細胞ができることはほぼ確実だったのですから、その時点でこのような会議を設定するべきだったのだと思いますが、それを今言っても始まりません。
とにかく大事なことは、いろいろな会議のために山中さんを引っ張り出さずに、研究に専念して頂けるような状態になるべく早くするということでしょう。

【追記:メディアの関連記事】
読売新聞
日経新聞
朝日新聞
毎日新聞

【追記2:K_Tachibanaさんの追加エントリー】
こちらになります。

【追記3:5号館のつぶやきさんの関連エントリー】
ヒトの研究が始まる時、動物の研究が終わる
私は必ずしもそう思ってはいませんが、それについてはまた改めて。
by osumi1128 | 2008-01-12 10:51 | 科学技術政策

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