つながる科学

年末に罹った腸炎の再発(なのか、再感染なのか?)で、この2日、お腹に力が入りません。
ラボドクターのMさんに伺うと、やはり最短の治療は「食べないこと」というので、やっぱり、少し良くなったからといって食べないことにします。
基本的に薬を使うのは好きではなく、痛みがあるのは無理をするな、という身体からの警告と受け取って養生するしかありませんね。
死ぬような病気ではないので。

*****
14日の日経朝刊の紙面に「科学技術立国の裏側ー中ー 意識改革、企業の戦力に」というコラムが掲載されていて、東北大学の高度技術経営キャリアセンターのことも取り上げられていました。
ここしばらく、メディアで「博士の就職難」という論調の記事が続いて、各方面で「そんなことはない。雇用した企業の満足度が一番高いのはPD>博士>修士>学士というデータがある」と訴えてきたのですが、今回の日経の記事はこれまでよりも好意的と思います。
現状を変えるための取組のいくつかを具体的にレポートしています。
最後の結びは、早稲田大学のプロジェクトに関わる方の談話で、「本当は大学の研究しかアタマにない教員の意識改革こそが必要だ」となっていました。
実際のところは、これは高いハードルです。
そういう先生のところに行かないことが先決かもしれません。

もちろん、アカデミアにはアカデミアにしかできないことをするのがまず第一で、そうでなければ利益を追求する企業体になるべきだと思います。
そのために、研究に税金が投入されるのであれば、その分のCSR (cooperative social responsibility)が必要なことは、私には自明に思えます。
それは、「この研究は<役に立ちます(役にたつはずです)>」ということを伝えるだけではないと考えます。
「この研究には、こんな歴史があって、こんな人たちが関わってきて、今、こんなことが面白くて、世界的にはこの研究室はこんな位置づけで、これからこんな風に発展するのではないか」ということそのものを、市民に<伝わる>ようにしていかなければならないと思います。

5号館のつぶやきさんの数日前のエントリーでヒトの研究が始まる時、動物の研究が終わるという記事が書かれました。
その中で、次のようなくだりがとても気になりました。
 その頃でも、ウニやカエルの受精研究の意義を述べる時に、それが「ヒトでは研究することが困難な受精のプロセスを明らかにすることに貢献する」ということを強調して、論文のイントロやディスカッション、さらには研究費の申請書類に書かれるのが普通でした。今でも、ヒト以外の動物を使った研究をしている我々が論文を書いたり、特に研究費の申請をしたりする時に、その意義を強調する時に「ヒトでは研究することの難しい**の研究の基礎データを得るために有用な研究である」などということをついつい書いてしまうものです。


たぶん、研究者自身がこういう考え方の呪縛から解かれなければならないのではないかと感じました。
本当に面白いことは、科学や生物学の素養がない人が見ても面白いはずです。
絵画や音楽のように、知識がなくても(あればあったでもっと面白いですが)楽しめるのに近い共感は、純粋科学でも得られるのではないかと思うのです。
でも、そのためには<伝わるようにする>努力も必要なのだと思います。
大学にしろ、学会にしろ、アカデミアの中だけで閉じていて、研究費申請のときだけ「これは、きっと将来、役に立つでしょう」と逃げていてはいかがなものか。

先日紹介した文科省の会議では、委員のお一人のTさんが「こういう予算で、基礎的な発生や再生の研究も支援されるべき」と述べられていました。
私は基本的に、極めて基礎的な、生命の基本原理を明らかにするような研究が、これからも日本で脈々と続くべきと思っていますが(そういう伝統があったからこそ、山中先生のiPS細胞に繋がったと思います)、一方で、この予算にお金が付くから、関係ありそうな研究ならそこに乗っかろう、というのはどうかと感じます。
やはり、基本的には「個人研究」が大事にされることが研究費制度の根幹にあるべきで、もう少しそのあたりの制度設計がしっかりしてほしいと思っています。
省庁も、「いかにiPS細胞につぎ込んで、それによって成功したか」に乗っかりたいというのは、箱物行政に似た短絡さを感じます。

再度<伝わる科学>の話に戻ると、そのためにはいろいろなレベルの仕組みや仕掛けが必要だと思います。
「知ることを面白い、楽しい、と思えるような」、あるいは「想像力を使わせるような」初等中等教育、お金だけが大事ではないという社会の雰囲気……そういったことも前提条件になるでしょう。
もちろん、アカデミアサイドの努力も不可欠ですが、アウトリーチ活動に長けた研究者ばかりではありませんから、いろいろな人の助けも必要だと思います。
研究って面白いと思って下さる市民、「それって、どこが面白いの?」と突っ込んでくれる評論家、研究者と一緒にボランティアをして下さる方、あるいは、何かの研究からインスピレーションを得て作品を創るアーティスト、そんな多様な方達とアカデミアが、企業までもが、つながったら素敵なのではと考えます。

よく考えると、「その研究って面白い!」と思って資金援助をしてくれる大金持ちがいたら、もっといいですね(*^_^*)
国にだけ頼るのもいかがなものかと。

【関連記事:リンク張り直しました】
先日届いていた、東京電力のCSRとして刊行している科学情報誌Illium第38号の特集が「発生・再生」でしたので、K_Tachibanaさんのこちらのエントリーをどうぞ。
by osumi1128 | 2008-01-16 22:29 | 科学技術政策

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