好きなことを仕事にできるという幸せ・その1

木曜日は日本生理学会の若手の会主催のシンポジウムでした。

若手の会シンポジウムYoung Physiologists Group Symposium
若手が将来の科学政策を考えないでどうする—若手研究者からの科学政策への提言—
Good policy makes better life: Young scientists' proposals for science policy
オーガナイザー : 篠田 陽 (理化学研究所 脳科学総合研究センター分子神経形成研究チーム) Yo Shinoda (RIKEN BSI Laboratory for molecular neurogenesis)

1 ポスドク問題と科学技術政策
澤 昭裕(東京大学先端科学技術センター)Akihiro Sawa (Research Center for Advanced Science and Technology, University of Tokyo)
2 研究人材を取り巻く状況—データから読み取れること—
三浦 有紀子(物理学会キャリア支援センター)Yukiko Miura (Career Support Center, The Physical Society of Japan)
3 人材こそ国の礎:アカデミアにもっと人を!
大隅 典子 (東北大学大学院医学系研究科)Noriko Osumi (Graduate School of Medicine, Tohoku University)
4 民間企業で活躍するポスドクたち—具体的な事例を交えて—
橋本 昌隆(株式会社フューチャーラボラトリ)Masataka Hashimoto (Future Laboratory Corporation)
5 将来の科学界のために、科学者は何ができるだろう
篠田 陽(理化学研究所脳科学総合研究センター)Yo Shinoda (RIKEN BSI)
6 パネルディスカッション


内容については主催者側からのまとめがいずれ出ると思いますので、個人的な感想を。

パネルの最後に司会の篠田さんから「もし、今ポスドクだったら、どうしますか?」という質問があり、パネリストが順番に答えていったのですが、私は「過去を振り返ってそういう風に考えることはあまりしないので……」と答え、「その代わりに、どうやってリタイアするのかについて考えています」と言いました。
最後時間がなかったので(私自身、次の予定が詰まっていたこともあり)、少し言葉が足らなかったと思うので、その意図をここに書いておきます。

パネリストからの問題提起の中にもあったのですが、「すでにアカデミアのポジションを得ている人の既得権が守られ、新たに参入するべき若手の権利が侵害されている」という指摘については、私も重要な点を含んでいると思います。
ここ数年、定年制も崩れつつあり、大御所の先生方が大きな研究室を維持されつつ、大きな研究費を獲得される傾向がありますが、これは「アメリカには定年制はなく、テニュアの権利を持った研究者は、研究費が獲得される限り、研究室を維持できる」ということに基づいています。
ただし、アメリカの研究費の審査に関わっているのはAssistant Professorレベルの方々も多く、一世を風靡した研究を行った方でも、最近の業績やプロポーザルが悪ければ通りません。
よって、徐々に縮小していく、という、生物学的にみてリーズナブルなキャリアパスになっていくか、Department Headや所長等の立場で、自分の研究室は持たずに(←ここ、重要なポイント!)マネジメントに徹するか(人事権は勿論とても大きい)、十分研究生活は楽しんだから、しんどい申請書書きなどはもうやめよう、という選択肢かになっています。

日本では、所長あるいは学長クラスの方も自分の研究室も持っていることがままあり、それはそれで大変お元気で素晴らしいことなのですが、国家レベルの施策の舵取りをするような立場にも関わってくる際に、利益相反にならないかと気になります。
専任のプログラムオフィサーなどがもっと活躍すべきと思います。

というようなことを感じていますし、「岡本の公式」でも指摘しましたように、PIのポジションを長く占めていたら後進に悪影響なので、定年過ぎても研究室を主催するというオプションは取りたくありません。
(もちろん、私が一人辞めてポジションを得られるのは、せいぜい一人か二人なのですが、精神論として、です)
したがって、いつ頃、今の仕事からはどのようにリタイアし、次に何をするのか、というプランを、10年単位くらいで考えないといけないなぁと思っている次第です。

たぶん、研究者という人種は「好きなことを仕事にしている」という実感を持って生きているので、可能であれば、ずっとそうしていたいのですね。
ポスドク問題の中でも指摘されているように、「研究ができれば、ずっとポスドクでもいい」という気持ちの方も、「定年後も、頭と身体が続く限り、ずっと研究していたい」というシニアな方も、根本のところで同じなのだと思います。
文学や音楽や美術やスポーツ関係の方々や、もしかしたらお笑い芸人も、それぞれ没頭する対象は違っていても、共通するメンタリティーでしょう。
大きな違いは、現代社会における職業としての研究者は(とくにバイオ系の場合)、かなりの割合が大学や独立行政法人のポジションにあるので、その給料が税金であるという点です。
さらに重要な点は、そういう研究者を育てるのにも、巨額の税金が投資されているということです(橋本氏の試算=国立大学学部からポスドク3年くらいまでで一人1億円というのは、ちょっとオーバーかもしれませんが)。

日本という国がどのくらいのアカデミアの人口を抱えきれるのか、誰かが本気で(最初に政策ありきではなく)シミュレーションしないといけませんね。
*****

咳のからんだ風邪と花粉症のタブルパンチが続いています。
東京の桜はこの週末が一番の見頃だと思いますが、仙台はあと2週間くらいでしょうか。
ヒノキは大丈夫なので、桜が散れば花粉症は治まるのですが……。

上記の続きのエントリーはまた明日にでも。
次は、金曜日午前中から参加した、東大の共同参画シンポジウムに絡めて。
by osumi1128 | 2008-03-29 11:56 | 科学技術政策

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