素粒子研究の流れは仙台にもあり
2008年 10月 10日
15:55発のANA便で中部空港で乗り継ぎ福岡空港に飛んで(ちょうど、先日、福岡から思いがけず日帰りした際の逆ルート、ですね……笑)、地下鉄で博多、それから鹿児島本線の特急かもめに乗り、35分で佐賀に着きました。
ホテルにチェックインしたのが午後9時くらいなので、約7時間の移動。
明日午後の講演に合わせる為です。
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さて、ご存じのように、今年のノーベル物理学賞は日本人3人の共同受賞でした。
南部先生は米国籍ですが、私の心情としては「日本人」ですね。
先生方のご研究を一言で表すと「対称性の破れ」の理論化とのことで、私にはイメージしがたい世界ですので、『仙台通信』としては東北大学との関連性について記しておきましょう。
物理学は理学部・理学研究科の王道ともいえますが、東北大学は元々、理学を元にして設立されたという歴史があります。
もちろん、我が医学部の歴史は、ずっと遡ると仙台藩の医学所開設の1817年と、それよりずっと古いのですが(と、医学部の卒業生の方々は仰います。同様の経緯を持つ医学部は多いでしょう)、東京大学では工学部を元に作られたのとは異なる経緯なのですね。
ちょうど東京帝国大学ができた30年後に、初代総長、澤柳政太郎が文部省から移って総長となり、東大から何人かの理学の先生を引き抜いたのでした。
ちなみに、澤柳政太郎が掲げた理念が「門戸開放」「研究第一主義」「実学尊重」の3つでした。
そんな訳で、アインシュタインは1922年に来日した際に、東北大学に立ち寄っています。
詳しくはWikipediaの「アインシュタインと日本」などをご参照下さい。
物理学は大きく「理論物理学」と「実験物理学」に分けられると言いますが、日本でノーベル物理学賞を受賞した、湯川、朝永、福井は前者で、後者が小柴先生です。
「物質を構成している小さな、小さな粒子の存在を捉える」というような細かくてかつ壮大な目的のためには、大きな、大きな装置が必要になります。
小柴先生の場合には、カミオカンデという装置を神岡鉱山の跡地を利用して造り、
宇宙ニュートリノを検出されたのですね。
そのお弟子さんの一人に鈴木厚人先生がおられます。
鈴木先生は東北大学の理学部のご出身で、長く理学研究科長や副学長も歴任されましたが、数年前に高エネルギー研究所の所長に赴任されました。
略称「高エネ研(もしくはKEK)」は、今回の小林・益川理論を証明するために創設されたような研究所で、ものすごい高圧の加速器によって「対称性の破れ」を生じさせ、6番目のトップクォークの発見につながったのです。
高エネ研はまさに世界の実験物理学の拠点としての役割を果たしています。
鈴木先生のお弟子さんである東北大学大学院理学研究科の井上邦雄先生は、まだお若いのですがグローバルCOE「物質階層を紡ぐ科学フロンティアの新展開」の拠点リーダーをお務めです。
また、「スーパーカミオカンデ」による研究チームの中心でもあり、さらに異なるニュートリノの検出を目指しているところです。
もちろん、ここで触れた方以外にも、沢山の研究者がいて、例えば、小柴先生の平成基礎科学財団の理事として支えていらっしゃる武田暁先生も、しばらく前まで東北大にいらした方です。
お名前を挙げたらきりがないので、個人的に存じ上げているごく限られた方のみになっています。
今回、南部先生の理論にしろ、小林・益川理論にしろ、提唱され始めたのが数閏年前。
下村先生のGFPの発見も40年ほど前のことです。
基礎研究の重要性が吟味されるには、時間による淘汰が必要なのでしょう。
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ところで、実は素晴らしいタイミング(笑)で、別冊数理科学の特集号『対称性と保存則』(2008年10月刊行)に、土居洋文先生と共著で「生物の発生における対称性の破れ」という原稿を書いていました。
土居さんは大学院時代からの恩人の一人で、以前ERATOの「土居アシンメトリプロジェクト」の総括責任者を務められたこともありますが、現在ではバイオベンチャーのCOEをしておられます。
元原稿を書いたのは10年以上前だったので、その後の情報をアップデートして書き直しています。
生物の身体は一見対称的ですが、内臓を見ると非対称なことがよく分かります。
そのような非対称性がどのように生まれてくるか、というあたりのことが、非生物学者を対象にして書かれています。
私が理解・実感できる「対称性」はこういうレベルです。