苦手なもの

うちの学生やスタッフは、皆何かしら好き嫌いがあり、パーティーを組む際に問題となる。
牡蠣を食べると当たるので駄目とか鱈の中の抗原に反応するので蒲鉾も食べられないという人は仕方ないとして、お昼のデザートにエクレアを2個も食べる学生や、挽肉以外の肉が食べられない学生、あんこが苦手(日本人なのに〜)、ウニが嫌い、エビが厭、茄子は食べない主義(食べられない訳ではないらしい)、紫蘇が苦手、などなど・・・
「栄養のバランスが悪くなるから偏食しないように」と口を酸っぱくして言うのだが(私は母親か?)、まったく効き目無し。
勿論私にも苦手な食べ物はあって、それはイナゴとかザザムシとか蜂の子とかなのだが(調理法には非依存的)、レストランでメニューを選ぶ際に「何かお嫌いなものはありますか?」と聞かれて「昆虫です(ニコニコ)」と答えると結構ジョークとして受けるのが楽しい。

考えると(私でも)苦手なものは結構あって、夕陽を見るのは好きなのだが、夕方近くの低い日射しが目に入るのはとても苦手。
新幹線で自分の横のカーテンを閉めても前の座席の方から日射しが来ると、とたんに気持ち悪くなってくる。
よって自分で車を運転するときサングラスは必需品。
電車やバス・タクシーの清掃に使われている薬剤の中の香料はとても苦手。
小学生の遠足でバスに乗ると決まって気持ち悪くなった。
長いこと乗り物に弱いのだと思っていたが、そうではないらしい。
実験室で遠心機の唸る音が厭なので、うちの研究室は実験室とオフィスが別室になっている。
もっとも、この分離型にしたのは最初のラボ(医科歯科の江藤研)がそういうスタイルであったせいもあるだろう。
試薬の匂いのするところでコーヒーを啜るのも気持ちのよいものではないし。

さて、話は少し脱線するが、うちの研究室のユニークな実験系として「哺乳類全胚培養法mammalian whole embryo culture」というものがあり、器官形成期のマウスやラット胚を2−3日ガラスのヴァイアルの中で培養できるのだが(これは一度見ると劇的である)、このときに使うのがラット血清(なんと100%の濃度で使うリッチなメディウム)。
昔はこのラット血清を研究者が自分で調整していた。
江藤研時代の最盛期にはこのラット血清作製が月1回のメインイベントであった。

前日に研究室に数十匹のリタイアラット♂を搬入し、ドラフトの中で一晩水のみで絶食させ、翌朝4,5人がかりで採血。
各自麻酔係からエーテル麻酔したラットを手渡されて解剖開始。
腹大動脈の大腿動脈への分岐部に針を刺すと良いのだが、江藤研初期の時代はそのことを知らずに、針の穴を上向けにして(つまり人から静脈採血するときと同じ)腹大動脈に刺していたので、下手な人が行うと返り血を浴びていた。
上手な人が行うと辺りを汚さず1匹当たり12-15 mlの血液を採取できる。
(オペでも実験でも料理でも、仕事が綺麗なのは技術が良いことを示す。)
一人15匹分くらいのノルマがあって、2時間くらいかかる。
遠心係(兼麻酔係)は採取した血液が溶血する前に直ちに遠心機にかけて分離する。
さらに血清調整係は午後に血清を全部集めて凍結保存する。
こうやって自前で調整したラット血清(良い出来のものは、ちょうど貴腐ワインのような感じ)を実験に用いていた。
採血は今考えても壮絶な光景である。
もちろんきちんと麻酔をして無痛的にラットから採血はしているのだが、一度に何匹ものラットを殺すことは、心理的には辛いものだ。

そこで神経センターに異動したときに、とある会社に「カスタムオーダー」をお願いし、これによって「自分の手を汚さず」良質の血清を調整して頂くことができるようになった。
だが、いろいろな研究はこうした実験動物の命を犠牲にして成り立っているということであり、試薬の会社から「購入」することによってすべて済む場合でも、間接的には動物の死に関わっていることを思い出すべきだと思っている。

実は一番苦手なものは何かと考えていて思い至ったのは「採血」である。
自分の腕に針が刺さり(痛み自体には耐えられる方だが)、徐々に注射器の中に自分の血液が入っていくというのは直視できない。
しかも、普段の血圧が低い上に、さらに痛みによって血圧が下がるので、時間がかかること・・・
取るのと取られるのはエライ違いである。
by osumi1128 | 2005-06-08 14:21

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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