下村博士の講演会とパネルディスカッション

昨年からのマイブームは紫色ですが、10年ほど前には緑色に凝っていた時期がありました。
本日の仕事に着ていったのは緑色、というよりは青磁色のジャケット。
緑色蛍光タンパク(GFP)の発見により2008年のノーベル化学賞受賞に輝いた下村脩先生の特別講演会に付随したパネルディスカッションに出るためでした。

朝日新聞社、日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会の主催でしたが、国際フォーラムの会場は3階席まで満杯状態。
老若男女、皆さんの関心の高さを感じさせます。

下村先生のご講演は、ほぼノーベル賞の受賞講演に準じていると思いますが、幼い頃からの生い立ち、第二次世界大戦と長崎への原爆投下、戦争によるごたごたで推薦状が得られず2年浪人したこと、名古屋大学の平田先生との出会い、ウミホタルを用いた研究から生物発光への傾倒、プリンストン時代におけるイクオリンの発見と、その副産物としてのGFPの発見……というドラマチックなものでした。
やはり、生の声は違いますね。
プリンストン大学のボスであったジョンソン教授は「オワンクラゲにもルシフェリン(基質)とルシフェラーゼ(酵素)があるはずだから、それを探そう」というテーマを下村さんに与え、さんざん試行錯誤しても上手くいかなかったということでした。
ボートの上で「なぜ上手くいかないんだろう?」と考えることも繰り返した挙げ句、ある日突然「ルシフェリン・ルシフェラーゼの化学反応ではないやり方で光っているのでは?」と閃いた。
このエピソードは、先日の山中さんのハーベイ・レクチャーの中の「その3:ボスの言うことを鵜呑みにしてはいけない」に通じることだと思いました。
もちろん、「何百回も、あれこれ試した上」での話ですが。

ちなみに、ノーベル・レクチャーについては、こちらの公式サイトから映像を見ることができます。

その後、休憩を挟んで蛍光物質の実験デモンストレーション。
北海道大学の近江谷克裕先生、産総研の呉純博士と、北大科学技術コミュニケーター養成ユニットCoSTEPの方々のご尽力により、いろいろ光らせる実験が行われました。
失敗無くきっちり時間通りに終わったのはさすがです。
惜しむらくは、ちょっと実験風景が暗くて(仕方ないのですが……)、遠くの方には見づらかったかもしれません。

それから、朝日新聞社の高橋真理子氏のコーディネートにより、下村先生のほか、磯部稔先生(名古屋大農)、長野哲雄先生(東大院薬)、村上龍男氏(鶴岡市水族館) と私がパネリストとして参加しパネル討論となりました。
磯部先生は、ご自身が発光化学をご研究されていらっしゃり、長野先生も分子プローブなどの開発をされていらっしゃいます。
村上さんは、山形県鶴岡市にある「クラゲ水族館(クラネタリウム)」として有名な加茂水族館の館長さん。
いやー、村上さんのご発言が一番笑いを取っていましたね〜。
私設の水族館として、一時は存続の危機に扮していたところ、いろいろなアイディアで持ち直したところに、下村さんのノーベル賞で返り咲いたというお話もドラマです。
いつか是非行ってみたいと思いました。
またアル・ケッチャーノに食べに行ってもいいしね(笑)。

私自身はGFPを日々研究のために使う何十万人もの末端ユーザの一人、という位置づけでした。
ノーベル賞は人類の平和のための賞ですので、GFPという発見が「誰でも使えるツール」になったことが大きいと思います。
生理学医学賞でも良かったのかもしれませんが、そのあたりの境界は微妙。

今回の発表用に4枚のスライドを用意しました。
うちの助教Tさん作の動画を入れておいたのですが、ちょっとWindowsとの相性が悪く、結局、Air Macから出力してもらいました。
このあたり、動画を使ったプレゼンは互換性がまだまだです。
せっかくKeynoteではなくパワポにしたのにね……。

残念だったのは、名刺を切らしたことに加え、デジカメを忘れてしまったこと。
写真は他の方に撮って頂いたので、きっとどなたか回して下さるでしょう。
という訳で、お見せできる画像は無しです。すみません……。

そうそう、オワンクラゲの採集は家族総出のこともあったようです。
今回も一緒に来日されていた奥様がチャーミングで印象的でした。

「どうしてアメリカで研究されようと思ったのですか?」という質問をしたのですが、下村先生にしては珍しく、かなり長いお答えとなりました。
「……かなり迷っていました。平田先生に伺っても、どちらともつかない表情をしていらしたし。家内に聞いたら<貴方の好きにしてください>と言われるし……」
結局の処、安定した名古屋大学のポジションで、発光に関する研究を他の研究(水質化学?)と並行して行うことよりも、自分の好きな研究に没頭できるであろうアメリカのポジションを選んだ、ということでした。
故郷の長崎に原爆を投下したその国に行くことには、かなりの抵抗感もあったのではと拝察します。

*****
今日は日帰りでしたが、今週は金曜日に学術会議のサイエンスカフェ、土曜日にまた日本化学会のシンポジウムで講演、さらにその後は解剖学会のシンポジウムと、プレゼン続きの1週間です。
サイエンスカフェのチラシ(脳科学GCOE事務局、K氏デザイン)を載せておきます。
「能楽と脳科学と」というテーマにチャレンジです。
下村博士の講演会とパネルディスカッション_d0028322_22563213.jpg

by osumi1128 | 2009-03-24 22:59 | サイエンス

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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