サイエンスカフェ「能楽と脳科学と」(追記あり)、化学会ノーベル賞関連企画
2009年 03月 29日
そもそも1年以上前に脳カフェの講師をNさんと考えていたときに、「<脳と能>で何かできないかな?」という難題を出していて、難しい問題ほど燃える(?)Nさんが面識ない能楽師の八田達弥さんをsuggestして下さったのですが、ご自身も「ぬえの能楽通信blog」というブログなどを通じて、情報発信している方でした。
「やっぱり、曲を見て頂かないと……」「能面、装束、扇なども展示してはどうかと思うのですが……」と積極的に企画にも関わって下さり、ご厚意によりご自身が所蔵されている貴重な品を展示品として出して下さいました。
それではこちらとしても粗相のないように、通常の「サイエンスカフェ@文科省情報ひろば」よりもバックアップスタッフも多く投入することとなりました。
脳科学GCOE事務局メンバーに加え、若手フォーラムからも数名が参加。
貴重な「教育的アウトリーチ活動」になったと思います。
そもそも、現時点で「能楽を脳科学的に捉える」というような段階ではないのですが、このような芸術分野との融合領域も、今後の脳科学として興味深い分野だと思っています。
サイエンスカフェは、科学者と市民とのコミュニケーションという意味だけではなく、異分野の科学者(人文科学含む)とのコミュニケーションを通じて、新たな展開に向けた刺激になるのも素敵だなと考えます。
開演に先立って展示物の説明を八田さんから頂き、19:00スタート。
弱法師(よろぼし)という演目のハイライトを披露して頂きました。
介添えをしたのは、八田さんのご子息で、鬘や能面を付けるところも間近に拝見することができたのは、大変貴重な体験でした。
その後、弱法師の主人公が盲目の少年であったことを受けて、脳科学ミニ知識として「"見える"とはどういうことか?」さらに、見たものがどのように記憶されるのか、感動するとは? などをスライドを使って説明しました。
その上で、会場の方々からの質問を受けましたが、なかなか深い、核心を突いた質問が多くありました。
このカフェは定員30名ということなのですが、来場された方は、毎月開催されているこのカフェの固定客の方、サイエンスカフェを介した科学コミュニケーションに興味のある方、能楽に興味のある方、脳科学に興味のある方、に大別されていたと思います。
そのような、多様なバックグラウンドの方々に満足して頂くのは難しいことではあるのですが、打合せの会で、演目を「弱法師にします」ということを伺ったので、極力それに合わせてみました。
いつもプレゼンスライドの表紙はどのようなものにするかは悩みどころなのですが、今回は幸い、東京国立博物館の収蔵品としてwebに掲載されているものの中に、ちょうど弱法師を描いた下村観山作の屏風6曲1双を見つけたので、それを使いました。
(全図は東京国立博物館のサイトをご覧ください)
会場の皆さんとのやりとりの後、さらにうちの研究室で関連するデータのごくごく一部を披露しました。
Pax6という遺伝子の自然発症突然変異ラットを用いた行動解析の実験で、海馬や扁桃体で働くPax6に異常があると、恐怖条件付け記憶テストの成績が悪い、というものです。
このような自然発症の突然変異は、いわば神様が行った実験のようなものであり、我々研究者はそれを有り難く使わせて頂いています。
Pax6は眼の発生に重要な遺伝子なので、このラットは個体によって差がありますが、先天性の視覚異常も伴っていると考えられます。
その点は、弱法師の主人公は生後のある時点で後天的に視力を失ったという設定なので、ちょっと違いますね。
その後さらに質疑応答をして、20:30過ぎに閉会と致しました。
脳科学のヴィジュアル系の画像などのパネル展示も見て頂きつつ、時間的にはかなり遅くなりましたので、大勢で大急ぎの撤収作業となりました。
大学からの参加者は日帰り扱いでしたが、有志で八田さんを囲んでの打ち上げを行って、さらに能楽についてのいろいろなお話を伺うことができたのは有り難かったです。
八田さん、皆さん、ご苦労様でした。
また、ご参加頂いた方々には心から御礼申し上げます。
ご来場者のアンケートの結果はまだ集計できていないのですが、終了後にポジティブなご意見を沢山頂きました。
サイエンスカフェのような活動は、講師や主催者側も楽しむことが大切と思います。
【追記】
ぬえの能楽通信blog(2009年3月29日エントリー)に八田さんご自身の言葉と、山口様が撮影された当日の様子が掲載されています。
その他、Science and Communication(2009年3月27日エントリー)に、このサイエンスカフェに参加して下さった方々が、それぞれ発信されているblogがクリッピングされていますので、ご参照下さい。
皆さん、心に残ったポイントが少しずつ違うのが興味深いですね。
開催して良かったと思いました。
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明けて土曜日は、日本化学会春季大会のノーベル賞関連シンポジウムに参加してきました。
会場となっていたのは、西船橋の方にある日大の理工学部キャンパスです。
こういう、大学キャンパスを使った学会は久しぶりでした。
13:00からの下村先生のご挨拶の折には、会場は満杯。
終わったとたんに出ていく方多数(苦笑)。
その後、夕方に向けてどんどん人数が減って、私は最終講演者でした(←かなり寂しい……)。
そもそも、化学発光の専門家、分子イメージングを研究されている方、新たな蛍光分子を開発されている方などなど、素晴らしい人選であり、私の前にすでに「GFPは素晴らしい! こんな風にも、あんな風にも利用されている」というような話を8人分聴いているのですから、私の出る幕でもないと思うのですが、こちらもまた「異分野科学コミュニケーション」だと思って、形態学系の研究の歴史などを紹介しました。
最後の演者だったからと思うのですが、「GFPや関連分子のツールとしての限界は?」というようなご質問を受けました。
「私よりもM先生の方がお答えするには適任と思いますが」とお断りした上で、「ツールというものはquestion-orientedに開発されるべきものであり、安定なGFPをむしろ分解されやすくしたものや、特定の細胞内領域に局在しやすいものなどが作られてきた。今後も、そのように改変・開発されていくだろうし、GFP等よりも使い勝手の良いものができたら、それに乗り換えることになるだろう」とお答えしました。
新しい技術開発の意味でも、異分野コミュニケーションは大切ですね。
最後まで残って聴いて下さった方々に心から感謝致しますm(__)m