『生命をつなぐ進化のふしぎ—生物人類学への招待』

お陰様で本日、無事に帰国、帰仙しました。
戻って来たら、本当にパリに行ってきたのかと思うくらい、日本時間に馴染んでいます(笑)。
ま、2泊ですからね……。
なんとなく、今週は往復の2日分が失われた気分です。

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さて、今回の旅のお伴に連れてきたのは、出版社からご恵贈頂いた『生命をつなぐ進化のふしぎ—生物人類学への招待』(内田亮子著、ちくま新書)でした。
著者は現在早稲田大学国際教養学術院教授で、人類学がご専門とのこと。
進化の過程でヒト・人がどのようにして生まれてきて、今日に至っているのかについて軸としつつ、もう一つの時間軸である受精から発生発達、加齢から死へのプロセスを平易なことばで説明されています。
その中で、脳の進化や社会性の獲得、性差のことなどにも触れておられて、とても幅広い内容です。
新書なので、もっとするっと読めてしまうかと思いましたが、さにあらず。
自分の専門や興味と近いためでもあるのでしょうが、何度も立ち止まって考えさせられる本でした。

こうして私たちはいのちの坂を道なりに通りすぎていくのである。どういうのぼりか下りかについて、生き物である以上どうしようもない部分が大きいことを認めた上で、それでも自分を客観的に見て少しもがくことができるのが、人間という生き物の特権であろう。(第6章 いのちの坂より)


このような捉え方は、私自身の人生観や人間観に近いものですね。

個人的には、ヒトの身体の中で脳という器官が割合として大きく高コストであること(第2章 食べるより)が改めて気になりました。
ヒトの脳は生まれたときの大きさから、さらに3倍くらいになるくらい、いわば未熟な状態で出生することや、それでも胎児の身体で脳が占めている割合が非常に大きいことも合わせて考えると、ヒトの脳が本当に「贅沢な器官」であることが分かります。
そして、それを成り立たせているのは、やっぱり栄養だなぁと思うのです。
単にエネルギー=カロリーの問題だけでなく、脳の中の細胞が増えるときの材料としても必要ですし、適切な機能を営むためにも、微量栄養素が重要です。

一方で、低カロリー食によって寿命が延びることは動物全般に当てはまる真実です。
線虫、ショウジョウバエ、マウス、ヒト、すべてのデータが食事制限の効果を示しています。
余談ですが、食糧自給率100%を越えているフランスに来ると、いつも本当に普通の食べ物が美味しいと思うのですが、ビストロで辺りを見回すと、「そこまでバターを塗らなくてもいいんじゃない?」と思う巨体のオバサマや、ランチのコースをしっかり食べた後、さらに、いかにも美味しそうにデザートを頬張る恰幅の良いオジサマがいらして、「食べないのに太る」ことは絶対にないと確信します。
うちの医学部でメタボリックシンドロームの研究がご専門のK先生に言わせると「脂肪が食欲を呼ぶ」のだそうです。
ただ、だからといって、神経機能が衰えてまで長生きしてもなぁ……と思います。
「脳に良い食事プロトコール」を個人個人のゲノムデータと合わせて作れたら……などと考える今日この頃。

脱線しましたが、本書の巻末には専門の論文の引用が多数ありますので、研究のヒントにもなりそうです。
オビにも裏表紙にも顔写真が載るくらいの美人の先生ですが(笑)、しっかり中身で勝負していらっしゃいます。
こんな魅力的な本が1冊720円って、(他の、いわゆる焼き増し、ゴーストライターものに比べて)安すぎません?
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パリの街角の画像は明日以降にアップします。

明日は脳科学グローバルCOEの第16回若手フォーラムです。
ポスターはいつも若手フォーラムメンバーの作品なのですが、今回のものはなかなかお洒落ですね!
ちょうど来週月曜日に行うGCOE中間評価のヒアリングのリハーサルをさせて頂きます。
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by osumi1128 | 2009-06-25 21:02 | 書評 | Comments(0)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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